お客さまの発信が新しいお客さまを呼び込む
今回の研究会で特に参加者の関心が集まったのが、日本ケロッグの「ケロッグ アンバサダー プログラム」だ。「現在、アンバサダーの人数は5000名を超える。食や健康に感度の高い方たちが、無報酬でオールブランの健康価値を、ご自身の体験をもとにブログやSNSなどで発信してくださっている」(大谷氏)。
当初、アンバサダーにはホテルでのディナー会などの特典も考えたというが、望まれていたのは食や健康に関する知識を得られる場だった。管理栄養士や料理研究家によるセミナーは、アンバサダーに人気のプログラムだ。
この取り組みについて藤本氏は「保険のように形がない商材は価値を実感していただくのが難しい。アンバサダーによる発信は企業目線の広告と異なり、お客さまにとっての疑似体験につながる」と興味を示した。
住友生命保険では近々、健康増進型保険の「Vitality」を日本で展開する予定であり、特にアンバサダーの仕組みをこの保険で応用できるのではないか、と参加者の会話が広がった。
「『「Vitality」はIoTの仕組みを取り入れ、日常の中で健康に寄与する行動をとると保険料が下がったり特典がもらえたりといったユニークな保険なので、加入者の方も発信しやすい特性がある」(藤本氏)。
「なぜ、無報酬でアンバサダーとしての活動をしてくれるのか」という点に参加者の関心が集まったが、大谷氏は活動が一人ひとりのお客さまの承認欲求を満たしているのではないか、とその理由を分析した。
この意見について加藤氏は「健康や美容、ファッションやカルチャーなど、人によって何の領域で認められたいか。満たされたい承認欲求のタイプは異なる。そのブランドに合った、お客さまの中にある承認欲求のタイプを見つけることが大事。一人ひとりのお客さまの心の満足に向き合うことが、これからのマーケターの課題」と指摘した。
1ブランド1商品での展開で、継続的に企業からニュースを発信しづらいことが課題というBAKEの黄氏も「お客さまのSNSの投稿を見ていると、例えばチーズタルトをおやつではなく、朝食に楽しんでくださっている方がいたりする。ニュースが少ない分、日本ケロッグさんのようにお客さまが発信をしたくなる仕組みづくりは参考になる」と話した。
企業理念を顧客理念に通しこむ
成功したマーケティング施策の共有に留まらず、企業の理念をいかにコミュニケーションに落とし込んでいくべきかという壮大なテーマにまで議論が及んだ今回の研究会。
加藤氏は「CLUBの活動を通じて、顧客から支持されている企業の共通点を分析すると、明確な経営理念があるだけでなく、その経営理念を自社の顧客にどのような価値を提供すべきかという、“顧客理念”にまで落とし込んだ方針があることが見えてきた」と総括した。さらに「抽象的な経営理念をマーケティング戦略の具体方針、コンセプト、エクゼキューションに落とし込むうえで顧客理念という考え方が非常に重要」と指摘した。
「どの企業も顧客の満足、幸せを考えて事業を行っているが、企業理念はあまりに壮大なので、日々の顧客接点で実践しづらい。例えば“ちょっと気が利く”など、顧客接点における企業の人格に落とし込んでみると、どのような行動をとるべきか、マーケティングの実行にまで落とし込んだ具体策が見えてくるはず。こうした落とし込みがあってこそ、一人ひとりのお客さまの心の満足に向き合うことができるのではないか」と指摘した。
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