CMOはなぜ日本に根付かないのか? — 博報堂コンサルティング 池田想氏

マーケティングそのものも進化している

CMOやマーケティングの正しい認識が浸透しない理由として、マーケティング自体が猛烈なスピードで進化と拡大を続けているということもあるかと思います。マイケル・ポーター教授の「バリューチェーン」という有名なフレームワークがありますが、ここではマーケティングは単一機能としての限定的な位置付けでしかありません。ポーター教授がこれを発表したのが1985年ですので、もう30年以上も経過しており、当然、今ではマーケティングも格段に進化しています。

現在のマーケティングは、図のように主活動を統合するような位置付けでとらえるべきです。実際、世界最強のマーケティングカンパニーと言われるP&G社では、マーケティング部門のブランドマネジャーが、マーケティング戦略策定はもちろん、商品コンセプト開発、需要予測、増産・減産の判断、パッケージデザイン、卸・店頭在庫予測、消費者調査、広告施策、予算管理、商談方針協議、店頭販促物制作、ディスカウント施策、効果測定など、まさにバリューチェーンの川上から川下まで全領域を股にかけて「顧客視点」によってビジネスをリードしています。

しかも、早ければ20代からブランドマネジャーに昇格する人材も多く、若い頃からマーケティングのプロフェッショナルとしての実践経験を積んでいきます。ここで培われる「顧客視点」の戦略策定・意思決定・実行能力こそ、まさに「(顧客視点によって)機能を束ねる“機能”」であり、企業視点が強い経営企画部門にないものです。

しかしマーケティングがこれほど幅広い役割を担うものであるという認識が広く浸透しているとは到底言えず、それこそが日本においてCMOが根付かない根本要因だと私は考えています。

日本のマーケティング学者の第一人者である早稲田大学の恩蔵直人教授は、近年のマーケティングの目覚ましい進化についてこう述べています。

「私が学生時代に学んだマーケティングと今日のマーケティングとでは、学問としての名称こそ同一であっても、実態には著しい違いがある。旅客機で例えるならば、次のようになるだろう。学生時代に学んだマーケティングはプロペラ機であり、今日のマーケティングは最先端のジェット機である、と」(『マーケティングに強くなる』恩蔵直人)

30年以上もの間、第一線でマーケティングの研究を続けてきた大家の言葉には、大変な重みと説得力があります。CMOやマーケティングの重要性と意義が、経営層の方々も含めて広く一般に浸透するにはまだまだ時間がかかるかもしれませんが、私もコンサルタントとして積極的に啓発活動を続けていきたいと考えています。

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