デザインの本質を考える1日
今年で11回目を迎えた「OSAKA DESIGNFORUM」は、第一線で活躍するデザイナーによる講演会ほか、デザイン学科生の作品展示を行い、毎年1000人以上の来場者を集めている。本年度は、プロダクトデザイナー 倉本仁さん、デザイナー・ビジョナー平野敬子さん、デザイナー・クリエイティブディレクター 工藤青石さん、同大藝術研究所所長・デザイン学科教授である喜多俊之さんらが登壇した。
倉本さんは「アクシデンタリー(偶発性)」をテーマに、実際の仕事を見せながら自身のデザインについて語った。続く平野さんと工藤さんの講演テーマは、「デザインの機能と美しさ」。その内容をプレゼンテーションするにあたり、当日は二人が主宰するコミュニケーションデザイン研究所(CDL)の公式サイトに、この講演のためのページを新たに追加。それをスマートフォンでオペレーションすることで、コンテンツやビジュアルが有機的にインタラクティブな環境で提示できるよう、この日のために設計し、プレゼンテーションを行った。
講演冒頭で、平野さんは自身のクリエイション活動における3 つの軸について話した。一つ目の軸は、「健康」。仕事に集中しすぎるあまりに体調を崩すことが多かった平野さんは、あらためて健康について考えるようになった。特に食事を重視し、CDL では毎晩、漆塗りの4つの椀に玄米、梅干し、平野さんが漬けたらっきょうなどを盛りつけ、スタッフみんなで食べている。
二つ目の軸は「イメージ」。近年の仕事の一つが、鹿島建設KT ビルのエレベーターのデザインだ。大理石が敷き詰められたフロアに並ぶ4 つのエレベーター。そのドアとかごの壁面を4 段階の明度に塗り分け、グラデーション状にした。通常であればエレベーターはマスプロダクトとして規格のまま建物に組み込まれるが、塗装に偏光パールを加えるなど、同社ならではの空間づくりに挑んだものだ。「優れたデザインにおいて、機能性と美しさは一対のものとして共存します。デザインの理想の姿とは、知性と品性の裏付けによって機能し、美しくあることだと考えています」。
平野さんの3つ目の軸は、「批評」にある。この活動において、平野さんはさまざまな視点からデザインを振り返り、考察し、テキストとしてまとめている。これまでに「時代のアイコン」展、「デザインの理念と実践」展の企画・構成、さらには書籍にまとめあげている。そして2015 年からは自身のブログを立ち上げ、東京五輪エンブレム審査の真実について綴ることを継続している。
「ブログで発言をしたことによって、私は自由になり、心が穏やかになりました。なぜなら捻じ曲げられた嘘の情報ではなく、事実が伝えられるからです。この経験を経て、クリエイターは自立した存在として囚われなく自由でなければならないということを確信したのです」。
この日のフォーラムを通して、学生を中心とした参加者たちには「デザインの本質」を自分はどうとらえていくか、大きな課題が突き付けられたといっても過言ではないだろう。
編集協力/大阪芸術大学