現役のイラストレーターの回顧展としては、これまでにない大規模な展開となっている。
大学卒業から17年 母校のサテライトで記念展を開催
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケット、小説『謎解きはディナーのあとで』の書籍カバーなど、色鮮やかなイラストレーションで知られる中村佑介さん。
母校である大阪芸術大学のスカイキャンパスで開催している「中村佑介展」では15のテーマのもと、これまでの仕事で描きおろした100点を超える原画他、学生時代の作品、ぬりえコンテストの作品、未公開フィギュアなどが並ぶ。中村さんいわく「人生初の大展覧会」。さまざまなオリジナルグッズも、すべて自ら絵柄をセレクトしデザインを手がけたり、トークショーや講評会などイベントを開催するなど、力の入った展覧会となっている。
大阪芸術大学に在籍していた頃、「早くプロになりたい」と思いながらも、卒業後の進路に迷っていた中村さん。3年生のときに、先生に趣味で描いていた絵を褒められたことがきっかけで、イラストに力を入れるようになる。また現在漫画家として活躍する石黒正数さんと大学で出会ったことも大きかった。その後、お互いに刺激しあいながら、自分が進むべき道を究めていき、現在もよきライバルとなっている。そして卒業後、大学助手を経て、イラストレーターとして本格的に活動を始めて15年。
「自分でも気づいていなかったのですが、母校である大阪芸大から“15周年ですよ”と声をかけていただいて、記念展覧会が実現しました」。
この15年間、常に心がけてきたのは、自身の、そしてイラストレーションそのものの可能性を広げること。そのために、積極的に新しい仕事へと挑んできた。その中で中村さんにとって転機となったのは、小説『謎解きはディナーのあとで』のカバーだ。
それ以降、音楽の教科書やさだまさしさんのCD ジャケット、柏木由紀さんとのコラボレーション、ロッテ「チョコパイ」のパッケージなど、これまでの自身のイメージ、さらにはジャンルや世代を超えた仕事が増えたという。
「『謎解きは~』以降、“こういうところにもイラストを使っていいんだ”ということを世の中に示せるよう、違うマーケットへとスライドしていくことを意識してきました。いろいろな分野でイラストレーションを使ってみたいという企業が増えれば、仕事も増える。将来イラストレーターを目指している人も安定して仕事ができるようになる。自分の仕事を通して、そういう世界を実現していきたいんです」。
今回の展示作品の多くは会場近くの天王寺で制作されたもの。大学時代から変わらず大阪を拠点とする中村さんだが、その視線は、すでに日本より広いマーケットを持つ海外を見据えている。「将来的には国や文化を超えて自分のイラストレーションが通用するのか、もっと挑戦してみたい」。日本のイラストレーションにエポックメイキングなできごとがもたらされる日は、そう遠くないかもしれない。
編集協力/大阪芸術大学、中村佑介展実行委員会