ブランドによって異なる「顧客視点」の解釈と実践法
東京と大阪、それぞれ全3部で構成された本セミナー。東京会場の第1部では、赤城乳業の萩原史雄氏が「お客様目線のプロモーションと『ガリガリ君』の成長の軌跡」をテーマに講演した。
常に話題を提供し、SNSを中心とした口コミを誘発、ファンを飽きさせることがないロングセラーアイスブランド「ガリガリ君」。1981年に発売されてから、2000年には年間1億本を突破、その後順調に販売本数を伸ばし、今や年間5億本を売り上げる。
萩原氏は、一貫して「お客さま目線」のプロモーションを念頭に置いてきた。お客さまの日常生活のあらゆるシーンに 「ガリガリ君」との接点を持ってもらえるような“小ネタ”を散りばめる。そうすることで、「ガリガリ君」ファンはもちろん、これまでアイスを喫食しなかった人までも、アイス売り場に誘引してきた。そんな地道な取り組みにより、お客さまの心をガッチリ掴んで離さないブランドへと成長、カテゴリーにおける不動の地位を築いている。
一方、大阪会場では、力の源ホールディングスの清宮俊之氏が登壇。「一風堂」が力を入れるグローバル展開について紹介した。日本とは異なる食文化を持ち、「麺をすする」という食べ方自体に馴染みがない海外のお客さまに、ラーメンをどう受け入れ、親しんでもらうか。「Zuzutto(ズズッと)」という言葉の開発をはじめ、海外展開における重要なカギとなった、 顧客視点のコミュニケーションの工夫を明かした。
第2部は、東京・大阪ともクロス・ マーケティンググループの堀好伸氏が「変わる生活者・変わらない企業 企業の持っているハート(志)が生活者と繋がる」をテーマに講演を行った。
市場環境は変化の最中にあり、生活者の価値観やライフスタイル、情報接触行動・消費行動も劇的な変化を遂げている昨今。企業は、こうした変化に戦略レベルでも戦術レベルでも対応することが求められているが、同時に自社・自社ブランドが社会に提供する本質的な価値や、目指しているビジョンに立ち返ることも不可欠だ。時代に合わせて、ブランドの提供価値と生活者が求めていることをどうつなぐか。その設計こそが重要と言えるだろう。
そして第3部は、顧客視点のマーケティング・コミュニケーションを実践し成長している企業3社が登壇するパネルディスカッションを行った。
東京会場の登壇企業は、天体望遠鏡など光学機器を製造・販売するビクセン、工房一体型店舗でつくる出来立てスイーツが人気のBAKE(ベイク)、そして多彩な調味料でいつの時代も家庭の食卓を支えてきたミツカンだ。
企業の歴史・規模、ビジネスモデル、商材が全く異なるこれらの企業は、「顧客志向」の解釈や実行の仕方、継続のための仕組みも三者三様。これは、大阪会場の登壇企業である、家庭用ガスコンロや給湯器などのガス製品で暮らしを支えるリンナイ、医療従事者向けに機能的でおしゃれな白衣や医療器具を製造・販売するクラシコ、そしてBAKEにも同様に言えることだ。
ビクセンは「星の写真を撮影したい」「天の川が見たい」「歌舞伎を楽しみたい」「コケ観察を楽しみたい」 といった顧客の個別具体的なニーズに耳を傾け、長年にわたって培った技術力で応えてきた。また「星を見せる会社であること」というビジョンに基づき、さまざまな天体観察イベントも実施。「星を見る体験」というコト価値も提供しながら、お客さまとのエンゲージメント強化を実現している。
一方、BAKEにとっての顧客志向とは「世界中の一人でも多くの人に笑顔を届けること」。これを商品開発からコミュニケーションに至るまで、ビジネスのあらゆるフェーズに落とし込んでいる。
誰もが知っているカテゴリーで、100人に1人が感動する商品づくりをする、という同社のルール「8割主義」。また、原料の生産地や小ロットでの生産工程にこだわり、美味しさを追求している。さらに、お店に来たとき、商品を持ち帰るとき、誰かに渡すとき、その一瞬一瞬をワクワクするような体験にしてもらえるよう、店舗やスタッフユニフォーム、パッケージなどのデザインにもこだわる。
ミツカンは、企業理念の中で「買う身になってまごころこめてよい品を」「脚下照顧に基づく現状否認の実行」の2つを自社の原点と明示している。各ブランドの戦略策定は、食や調理に対する価値観によってターゲットを8つに分類した「食調理ニーズクラスター」に基づいて行う。
また、家庭の食卓の様相が時代によってどんどん変化する中、お客さま一人ひとりの「自分なりの使い方」を尊重し、それをエンパワーするコミュニケーションにも力を入れる。顧客に合わせて革新を続けてきた歴史が、今日のミツカンをつくり上げた。
「顧客志向」の解釈や実践方法に、唯一の答えはない。自社ブランドが提供できる価値と、お客さまが求めていることを今一度見直し、それぞれの「顧客志向」のあり方を見出し、実行し続けていく必要がある。
お問い合わせ
株式会社クロス・マーケティング
URL:https://www.cross-m.co.jp/
E-mail:insight-web@ml.cross-m.co.jp
TEL:0120-198-022