アップル、トヨタ、スノーピークにみるブランド価値の共創

スノーピークとトヨタ86

あるブランドの体験が消費者の期待を超え感動にまでなると、消費者は熱狂し、ブランドのファンになり、このブランドと離れたくないという感情的な結びつきが生まれます。アップル・エクスペリエンスはまさにこれです。

新潟のアウトドアブランドのスノーピークやトヨタのスポーツカー86(ハチロク)も同じように熱狂するファンがいることで知られます。これらも体験ブランディングのお手本になる事例だと思います。

スノーピークはアウトドア界で突き抜けた製品やサービスを提供するブランドとして知られていますが、社長をはじめとする社員全員が熱心なアウトドア愛好家。ユーザーとスタッフが焚火を囲んで語り合う交流キャンプイベントを全国で行ったり、本社敷地内に広大なキャンプ場を持っていたりと、とにかくI LOVE CAMP, WE LOVE CAMPなブランドなんですね。社員自らがヘビーユーザーとして強い主観を持ち、さらにキャンプイベントなどユーザーとの共体験の場でリアルな声を聞き、次の進化を共創していく。

徹底したユーザー視点でのモノづくりから生まれた高品質高価格の製品は、永久保証をうたっているので保証書そのものが存在しないのだとか。この背景には「品質には絶対の自信があるのでとにかく製品を長く愛用して、沢山の思い出を刻んでいただきたい」*3というメーカーの強い想いが詰まっているのだそうです。

*3:日本取引所グループ、上場会社トップインタビューより

交流に力を入れているのは、トヨタ自動車の86も同じです。「86 SOCIETY」という同社が提供するオーナーズコミュニティがあって、オーナー同士がWeb上で語り合ったり、全国で開催されるリアルイベントに参加したりできます。

86というクルマがユニークなのは、スポーツカーなのに絶対的な速さを追及せず、運転して楽しいかどうかを絶対基準に設計されていることですが、もう一つ他社(他車)にはない決定的な違いがあります。それは「スポーツカーの文化をメーカーとドライバーがともに育てる」ことを、公式に宣言していることです。

クルマは普通、売った後は点検や修理のアフターサービスがメインになるものですよね。公式でパーツをドレスアップしたり、オーナーズクラブをつくったりすることは多くありません。

ところが86は、「ドライバーに買った後の楽しみ方を積極的に発信していく」と発売前から宣言し、事実、その活動が熱狂的なファンを生んでいます。86を購入したことがきっかけになり、この活動を通じてオーナー同士がつながり新たな仲間との86ドライブの共体験を楽しんだりもされているのではないかと想像してしまいます。

アップルストア、スノーピーク、86すべて共通しているのは、体験をフックに消費者の興味や共感を引き出したり、買った後に始まるストーリーを大切にしているということ。モノの機能や性能だけではなく、それを手にすることで得られる“経験価値”を大事にして、消費者と一緒に“いい体験を積み重ね、ブランドの価値を共創する”–それこそが体験ブランディングなのです。

藤井一成氏(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役/クリエイティブディレクター))

1968年広島市生まれ。1992年早稲田大学政経学部卒業後、電通国際情報サービスに入社。1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを数多く手掛ける。その後、グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き、「至福の時間をつくる」クリエイティブブティック「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。消費者の“いま”の視点に立ち、ブランドが持つ価値を再編集することで新たなエンゲージメントを築き、ブランドと消費者、社会を次のステージへとポジティブに動かす。「正しいことを楽しく実践して、すべてのステークホルダーを幸せにしたい」という信念のもと、戦略、クリエイティブ、体験デザイン、PR、デジタルなど、360°の視野で構想から実践までを行う。

 

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藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)
藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

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