—顧客にとって魅力的なブランド体験を提供するために、カスタマーサポートに関心を持つ日本企業が増えている。カスタマーサポートの重要性を、どのように捉えているのか?
大事なポイントが、3点ある。1つ目は「顧客のロイヤリティ向上」に役立つことだ。カスタマーサポートの質を高めることで、一度取引した顧客と再度取引することができる。
2つ目が、クチコミなどの「エバンジェリズム」になる。従来のチャネルだけでは、新規顧客の獲得が難しくなっている。既存顧客にエバンジェリストになってもらえれば、効率的に顧客を獲得できる。
3つ目が「信頼」になる。最近の消費者は、企業を「信じていない」という傾向がある。ある調査では顧客の6割が企業のWebフォームに不正確な情報を記入したことがある、と回答している。信頼関係が構築できれば、企業と顧客との間で摩擦が生まれない。
—ロイヤリティ向上やアップセルを促していくことは、通常はマーケティング部門が担っている領域です。
たしかに多くの企業は、カスタマーサポート部門、セールス部門、マーケティング部門と分断されている。しかし消費者は企業の組織構造について関心がない上、同じ部門・担当者と一貫してつながりを持ちたいと考えている。最近、我々が取引するスタートアップ企業では、製品開発部門やマーケティング部門の中に、カスタマーサポート部門が組み込まれている。
—カスタマーサポートとマーケティングは、どう連携できるのか?
まさに多くの企業が、その視点を忘れがちだと思う。カスタマーサポート部門は、お客さまと常にコミュニケーションをとっており、顧客情報を大量に保有している。したがって顧客の質問や要望を分析することで、企業が抱えている問題の解決につなげることができる。よく言われるが、問い合わせの裏には同じ課題を抱えている人が、少なくとも10人はいる。
—今の話は、日本だけでなくグローバルで見られる課題なのか?
間違いなく、そうだ。重要なのは、カスタマーサポートを戦略的に捉えることだ。一つの部署としてではなく、より広いかたちで、繊維のように企業内に織り込まれる存在であるべきだろう。
—日本ではカスタマーサポート部門の人材採用が難しく、サービスのクオリティを維持することが課題と聞く。
そういう問題が存在するのであれば、給与を上げるべきだと思う。カスタマーサポート部門の人材は安価で働いてくれると思いがちだが、毎日自分たちの顧客と話をしている人たちであり、おかしな話だ。
一方で、カスタマーサポートの質を高めるためには、人員数を増やせば解決するという問題ではない。実際に消費者が喜んで、自ら電話やEメールで連絡したいのかを考えるべき。一番良いのは、顧客自身で問題を解決できることだ。そこで我々は、カスタマーサポートを自動化する技術にも投資をしている。より良い顧客体験の提供につなげていきたい。
—メッセージアプリを通じて、商品を注文できたり、宅配便の再配達を依頼できたりするなど、企業と顧客の新しい関係が生まれている。こうした動向について、どのように考えているのか?
企業が若年層にコミュニケーションしていく上で必須だろう。電話もEメールもしないかわりに、LINEやFacebookメッセンジャー、iMessageなどを利用している。新しいチャネルでサポートすることが重要だ。
そして何よりも求められるのが、顧客が複数のチャネルを簡単に乗り移られるようにすることだ。電話のコールセンターで待たされるのであれば、すぐにLINEやFacebookメッセンジャーにスムーズに移行できるべきだ。新しいチャネルに対応している企業は多いが、それぞれのチャネル間を連携している企業はまだ少ない。