ストリートアートが生み出した、1秒も無駄にしない広告の方法

【前回の記事】「#コアライオン ~南半球を揺るがすアイデアたち~「メルボルンシティロゴから学ぶ、愛され続ける街の、愛され続けるロゴデザイン」」はこちら

【執筆者】
ちぇへをん (TBWA\Melbourne Art Director)

1991年韓国ソウル生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業後、2014年TBWA\HAKUHODOにデザイナーとして入社。2017年より1年間TBWA\Melbourneにてアートディレクターとして勤務。韓国と日本の両国の感覚を持ちながら、さらに国籍を超えたビジュアルコミュニケーションを追求する。これまでに、日産自動車、H&M、高島屋などを担当。受賞歴にCannes Lions Gold, Ad Stars Gold, Clio Award Grand Prix, Spikes Asia日本代表など。

 

ご存知の方も多いかもしれませんが、メルボルンはストリートアートでとても有名な街です。

オーストラリアでは、公共の場所に絵を描くことが法的に認められているエリアがあるほどです。ストリートアートで埋め尽くされた道が観光地化されており、日中は実際に壁に描いているアーティストやその様子を見る観光客で賑わっています。すでに描かれている作品はもちろん、アーティストが実際に絵を仕上げていく様子までライブで見られるのが、メルボルンストリートアートの醍醐味の一つです。

日本ではストリートアートというと悪質なイタズラとして取り上げる方が多いかと思います。その印象のせいか自分勝手な迷惑行為だと思われがちですが、アートとしての趣旨やその根底にある思いは広告とつながるものがあると思っています。ストリートアートは、描きたいメッセージを一つの視覚的要素を使い、いかに効果的に伝えられるかが問われるため、インパクトある場所や方法で描くほど高く評価されます。社会にインパクトのあるメッセージを考え、それをより強く伝えるためにどのような場所でどう伝えるか、これはまるで広告のコアアイデアを考えどのように掲載するのかを考えるのと同じだと思いませんか?

そんな理由からか、メルボルンの屋外広告では面白い現象が起きていました。今回はストリートアートから生まれた、メルボルンならではのユニークな広告を紹介しながら、そこから学べる「1秒も無駄にしない広告の方法」を考えてみたいと思います。

ストリートアートと広告の境目が消えた瞬間を目の当たりにした

Sometimes it's ok to sit back and admire such glorious achievements. Well done team, what a result! #streetsourcanvas #wearemelbournemade #dulux

Apparition Mediaさん(@apparitionmedia)がシェアした投稿 –

MIIIILLLKKKK…#bigm #milk #chocolate #chocolatemilk #yum #yummy #yeah

Apparition Mediaさん(@apparitionmedia)がシェアした投稿 –

(出典 全て Instagram @apparitionmediaより)

これはメルボルン市内のあちらこちらにある普通の屋外広告です。

と、私も思っていました。驚くことに、これらは全てスプレーやペイントによる手描きです。この6カ月メルボルンで生活しながら毎週のように見ていたものなのですが、つい最近まで手描きだということに気づかなかったほどの驚くべきクオリティーです。

私はこの事実を知った瞬間、ストリートアートと広告の境界線が消えたかもしれない!と実感しました。ストリートアートの利点をうまく広告に生かした、メルボルンならではの面白い方法だなと思いました。

広告をインスタレーション化させる3つの方法

一般的な屋外広告に比べ、この方法の何よりもいい点は群衆の目を引くことです。10日間の掲載期間だとするとそのうち数日を使い、ライブでペインティングしているところを見せます。10階建ての建物の壁面に何十メートルの絵を描いていれば、誰しも目を止めると思いませんか?普段の広告だったら3秒ほどで見過ごしていたかも知れないものを、インスタレーションにすることで人々の目線を止まらせているのです。 このような広告を作るにおいて、大きく3つの方法があると思います。

#1 飽きない広告

一つ目はライブ感です。ペイントをする様子を生で見られるため、当然ながら絵が変化する面白さがあります。完成されたものを掲載する一般的な広告とは違い、描かれたものを段階的に目にすることができるので、今までの屋外広告にはなかったライブ感を味わうことができます。物語のようなストーリーテリングも可能にするので、企業ロゴや商品タイトルといった情報要素を先に描いてからペイントを始めれば、その様子からインスタレーションのような体験を味わうことができるのです。また、出来上がった絵に上書きしていくことで、状況に応じて掲載期間中にメッセージや絵の内容が変化するといった、飽きない広告をつくり出していると思いました。

Get on it tonight!! Opening weekend… #bluesteal #zoozlander #zoolander2 #hashtagzoolander2 #movies #getonit

Apparition Mediaさん(@apparitionmedia)がシェアした投稿 –

(出典 全て Instagram @apparitionmediaより)

#2 表裏のある広告

広告とストリートアートをうまく融合させたことにより、既存のプリント広告ではできなかった表現も生まれていました。下記の画像は色を塗る際に、夜光ペイントを使ったものです。ブランドや商品の雰囲気によっては暗くて落ち着いた雰囲気が合うものもあるかと思います。アナログな表現ではありますが、限られた場所と予算の中で商品やサービスの特徴を最大限に引き出せているのではないかと思いました。同時に、昼と夜で真逆の印象を与えることもできます。昼より夜の方が目につく屋外広告はなかなかないのではないでしょうか。

Painting transformed #mazda #drivingtransformed #whitenight

Apparition Mediaさん(@apparitionmedia)がシェアした投稿 –

When your painting glow at night it's real purdy

Apparition Mediaさん(@apparitionmedia)がシェアした投稿 –

Excited much!? #gameoftones

Apparition Mediaさん(@apparitionmedia)がシェアした投稿 –

#3 遊びのある広告

そもそもストリートアートは、社会風刺のようなディスリスペクトなメッセージを含むものが多いアートです。そんな特徴を広告にうまく取り組んで、ストリートならではのやんちゃな表現をしている事例もありました。下記はNIKEの「Just do it」のキャンペーンなのですが、競合他社のフォントとフレーズを使いうまく比較広告をしている事例です。そもそもこのキャンペーンは特殊な屋外広告とは関係なく行なわれているものですが、最初に観た時、一瞬これが広告なのかストリートアートなのか見分けがつきませんでした。それは遊び心のあるアイデアとこの媒体がとてもマッチしていたからではないかと思いました。

@patrickdangerfield – is that chu bro? ?

Apparition Mediaさん(@apparitionmedia)がシェアした投稿 –

Not quite quittin' time

Apparition Mediaさん(@apparitionmedia)がシェアした投稿 –

(出典 全て Instagram @apparitionmediaより)

新しい広告方法を作る集団

これら全てを手がけているのは、Apparition Mediaという集団です。アートスタジオまたは広告代理店とも名乗っており、依頼された場所に広告を描き込む仕事をしています。Apparitionとは「幽霊などの突然な出現」を意味するのですが、その名の通りどんな壁でも突然、広告媒体に変えてしまうユニークな集団です。この会社はオーストラリア全域で、幅広いクライアントを持ちながら活動を続けています。

(動画:https://vimeo.com/193311533)(VIMEO)

Apparition Mediaは、グラフィティ、ステンシル、フォトリアルなど、さまざまな方法で壁画を制作しながら、既存の広告にはなかった「パフォーマンス」という要素を足すことにより、一般的なメディア掲載よりキャンペーンの露出を増やしています。掲載される開始から完了まで、その進行までも広告化することにより、従来の形式の屋外広告を超えることはもちろん、人々の広告に対する態度まで変えている気がしました。

ストリートアートから見つけたこれからの広告の未来

Apparition Mediaの活動から学んだのは、メルボルンが持つストリートアートという独自の文化を企業や商品のメッセージを伝える手段にうまく融合させていた事です。ものを売る広告マーケティングにおいて、掲載を開始した瞬間からなんとなく広告の露出についての意識から離れがちです。しかしその露出を1秒も無駄にせず有効に活用するために、私たちは広告枠を超えて広告の仕方までデザインすべきなのかと思いました。

そしてそのヒントは、日本独自の文化の中にあるかもしれません。文化の特徴を広告手法にうまくつなぎ合わせることで、「楽しめる」広告という新たな表現を生み出せるのではないかと思いました。メルボルンがストリートカルチャーを広告手法に取り入れたように、日本ならではの広告の方法が日本の文化の中に隠れているかもしれません。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ