広告の文脈で人工知能が活用できる3つの切り口
博報堂アイ・スタジオは、人工知能の要素とクリエイティブアイデアをかけ合わせることで、クライアントのブランディングに寄与する取り組みや研究を2016年にスタートし、エンジニア中心でプロトタイピングや研究を行っている。
クライアントとの企画立案では、まず活用し得るデータ・アセットの整理を行い、そこから人工知能で到達し得る性能精度と、広告施策として担保したい品質水準のギャップを確認する。それらの制約を睨みつつ、導き出せる施策の落としどころを探る。
企画実現に至ったケースもあれば、不成立の分析から学ぶケースもあるが、現時点で広告の文脈で人工知能が活用できる切り口は、およそ3つに整理できるように思う。
それは、(1)ブランディング、(2)新しい表現の創出、(3)効率化である。
以下に、それぞれの事例を示してみる。
(1) ブランディング、新規ファンの創出
強い個性を持ったロックバンドのアルバム発売と連携した、プロモーションの一つとしてのチャットボット。
チャットボットが尖ったキャラクター設定のため、汎用的なデータ学習ではなく相当量のシナリオデータを準備し、自然言語処理・言語感情解析処理・スタンプ画像など感情とトークを組み合わせ、意図した会話体験が成立するようつくりこみを行った。
また、会話が一定時間中断した時のAI側からの発話や電話など、会話以外の複合要素でのつくり込みも重視し、体験の幅広さを創出した。
(2) 新しい表現の創出
鏡に映る人の年齢や性別・顔・感情に合わせ、その人に最適な商品・サービスの広告を表示する、新たな広告配信システム。鏡(ミラーディスプレイ)に映る顔に直接商品を合成表示することができ、必要な時に必要な行動を示唆する新しい広告体験を創出する試みだ。
人工知能技術の一翼を担う「コグニティブサービス」は、画像に映り込む物体を識別する「物体認識」、人物の表情などから性別・年齢・感情などを分析する「顔認識」「感情分析」、人の発話と文字テキストを相互変換するものなど多数あるが、この施策では、人の顔から年齢・性別・感情を分析するコグニティブサービスを使用し、従来のページアクセスや検索ワードによるユーザー分析とは異なる情報から、ワントゥワン体験を創出している。
これらの取り組みを通して改めて感じているのが、人工知能技術単独で広告としてのコミュニケーションを成立させることは難しいということだ。
人工知能(ディープラーニング)の学習結果の根拠はブラックボックスのため、認識精度のチューニングは手探りとなることが多い。またコグニティブサービスの精度、例えば顔認識も、角度や照明、眼鏡などの着用条件によって正しく認識されなくなる。
その一方で、人間のつくるアルゴリズムを離れたところで、意外性や鋭さを感じさせる結果を示すことがあり、また「人工知能」というイメージを使った人格化、ワントゥワンのやりとりを設計することで、従来と異なるブランディング、体験の創出につなげることができる。
人工知能の能力を表現に引き出しつつ、逸脱する結果に対するフォローなど、体験を成立させるための仕掛けのクリエイティビティも求められる。
前述の分類で3番目に挙げた「効率化」については、次回の記事で触れてみたい。
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