京都の伝統工芸を世界に売り込め!「GO ON (ゴオン)」プロジェクト(前編)

【前回】「電通 髙崎卓馬×長久允×尾上永晃「拝啓、コンテンツつくってますか!?」(後編)」はこちら

10年にわたる海外勤務を終え、京都に赴任した電通京都支社の各務亮さんは2012年、伝統工芸を扱う6社と、日本の伝統工芸の新たな価値を発信していくプロジェクト「GO ON (ゴオン)」をスタートしました。そこから立ち上げた、新ブランド「Japan Handmade」がミラノやパリで好評を博すなど、いま注目を集めています。

今回は一緒にプロジェクトを推進してきた西陣織老舗「細尾」の12代目 細尾真孝さん、各務さんの戦略ブレーンとして関わっているソナーの岡崎孝太郎さんを迎え、日本の伝統の未来を俯瞰しつつ、京都から世界に仕掛けていく企み(たくらみ)を紹介します。

京都の伝統工芸の価値を世界に伝える

各務:今日は細尾12代目の細尾真孝さんと、アカウントプランニング専門会社ソナーの岡崎孝太郎さんと共に、伝統の価値とは何か、そして、その伝統をどのように未来につなげていけばいいのか、ディスカッションしていきたいと思っています。

私は5年前に海外勤務から電通京都支社に異動して、そこで触れた「京都の文化」にとても感動しました。そして京都の伝統業界がこの20年間で大幅に縮小していることを知り、その魅力を海外に発信するお手伝いがしたいと、伝統工芸6社の若旦那衆と「GO ON」というプロジェクトを立ち上げました。

国内外の企業やクリエーターに伝統工芸の技や素材を提供して、今までにない新しい価値を生み出そうという活動です。中でも細尾さんはGO ON結成前から、海外のインテリア・ファッション業界とコラボレーションするなど、先駆的な取り組みを行っています。

細尾真孝
株式会社細尾常務取締役

1978年、西陣織老舗細尾家に生まれる。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカー入社。退社後フィレンッェに留学し、2008年に細尾に入社。09年から新規事業を担当。西陣織の技術、素材をベースにしたファブリックを海外に向けて展開し、建築家ピーター・マリノ氏が手掛けるクリスチャン・ディオール、シャネルの店舗に使用される。16年 MITメディアラボディレクターズ・フェロー就任。

細尾:西陣織には、1200年の歴史があります。特に京都に都が置かれていた1000年間で、天皇や貴族といった層の権力の象徴として、その美しさを追求し続けてきました。現代のように誰でも西陣織に触れることができるようになったのは、戦後になってからです。この西陣織をひとつの「素材」として捉え、海外のマーケットに売り込む事業を8年前に社内ベンチャーとして立ち上げました。

例えば、高級ブランドのクリスチャン・ディオールは銀座を含む世界100都市の店舗の壁紙や、椅子の張り地に西陣織を採用しています。さらにシャネルやブルガリ、ルイ・ヴィトン、国内ではザ・リッツ・カールトンや宝飾品を扱うミキモトがカーテンやクッションに採用しています。

他にも、現代アートやバイオテクノロジーなどともコラボレーションしました。パナソニックとは、金や銀を織り込んだ「箔」という織物の通電性を利用して、人が触っている間だけ音が鳴るスピーカーを搭載したウエアラブルな織物の開発にも取り組んでいます。

各務:「GO ON」を始める前から、伝統工芸の後継者たちと、一緒になって挑戦を始めていたんですよね。

細尾:そうです。もともと僕は家業を継ぐ気がなくて、ずっとミュージシャンをしていたんです。8年前に伝統工芸をクリエーティブ産業に転換させたいと思い立ち、実家の西陣織を継ぐことにしました。

西陣織は1200年間ずっと国内だけを市場としてきたため、世界の人は西陣織の技術・素材・ストーリーをほとんど知りません。これは見方を変えれば、大きなチャンスだと思ったんです。

そこでまず、手探りでミラノサローネに出展したのですが、初めてということもあって当然うまくいいきません。でもフッと横を見ると、同じように悪戦苦闘している日本人がいたんです。それが今の「GO ON」のメンバーです。

伝統工芸の世界は、横のつながりがほとんどありません。ですから、彼らの名前は知っていても面識はありませんでした。しかし同世代が自分と同じような思いで、海外に挑戦していると知って、一緒に伝統工芸の在り方を変えていこうという話になったんです。

次ページ 「日本人の感性を武器に世界に出る」へ続く

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