【前回コラム】「『シン・ゴジラ』制作秘話~セリフが早口だった意外な理由とは?(ゲスト:長谷川博己)【前編】」はこちら
今回の登場人物紹介
※本記事は8月26日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
9月公開の『散歩する侵略者』
権八:長谷川博己さん出演の映画『散歩する侵略者』が9月9日から公開されるということですが、澤本さんは既にご覧になったんですよね?
澤本:見ました。面白かったです。黒沢清監督の作品は毎回難しくて、「黒沢清監督の映画を好き」と言わないと、「お前は映画についてろくに知らないんじゃないか」という、「ゴダールが好き」と言わないといけない雰囲気に近いものがあって。
権八:黒沢清監督を好きというと、“わかってる感”がありますからね(笑)。
澤本:さらに言うと、僕は大学のときに蓮實重彦という映画評論家の授業を受けていて。
権八:さすがですね。めちゃくちゃ贅沢だな。
澤本:映画に詳しかったわけじゃなくて、そのゼミが面白そうだから入ってみたら、みんな映画オタクなの。毎週、今週見てきた映画について発表しなければいけなくて、そこに僕や関口現がいたんですけど。
権八:CM業界で有名なディレクターの関口さん。
澤本:僕たちは一番後ろに座って、前のほうには蓮實さんのゼミに100年ぐらいいるような人がいて。
権八:「主」みたいな。
澤本:そういう人達は本当に映画に詳しくて、知らない映画について話すの。それを蓮實さんは全部見てらっしゃって、的確にこういうところがいいよねと話して。前から順番に当てていって、最後僕のところにきて、正直に「『となりのトトロ』を見ました」と言ったら、蓮實さんはトトロの話をきちんとされて。おかげで救われて、優しいなと思いましたよ。
周りが「ゴダールの『右側に気をつけろ』を見ました」と言っているなかで、トトロと言ったら、前のほうの人達は「ん? もうちょっとないか」という顔をしたけど、蓮實さんが話してくれたおかげで、「彼も良いもの見たんだな」感があって、助けられて。
権八:蓮實さんはすごいですよね。博学というか。
澤本:黒沢清さんは立教で蓮實さんの秘蔵っ子だから、蓮實さんの授業の中でも、黒沢清監督はちゃんとわかってらっしゃる監督の1人として出てきていたのね。だから、今回の『散歩する侵略者』を見るときも覚悟したわけ。でも、面白かったですよ。
権八:エンターテインメント性もあって。
澤本:うん、わかりやすいという言い方は変だけど、見ていてわかりやすいし、テーマも「概念を奪っちゃう」というものなんですよね。
権八:そこは長谷川さんに聞きましょう。どんな映画なんですか?
長谷川:長澤まさみ演じる妻・加瀬鳴海と、松田龍平さん演じる夫・真治がいて、その夫婦は倦怠期であまり良い状況ではないんですね。そこで記憶をなくした真治が「僕は地球を侵略しに来た者だ」という話をして。僕は日本でおかしなことが起きているということを嗅ぎつけているジャーナリストの役です。
いつも通り自衛隊に行っても取材を拒否されるから、何かが起きているような感じがすると。ただ、その取材はさせてもらえなくて、「一家惨殺事件の取材に行ってこい」と言われて、しょうがなくそこに行くわけですよ。そうすると、もう1人、高杉真宙くん演じる天野という、それもじつは中に侵略者が入っているわけですけど、「俺にガイドになってくれ」と言うんですね。・・・長い説明で(笑)。
権八:いえ、大丈夫です(笑)。
長谷川:簡単に言うと、侵略者が地球に来て、地球の人間から概念を奪うんです。概念を奪われた人間は性格が変わってしまって、ふにゃふにゃになっちゃうんですね。その被害者と、侵略者たちが必要とするガイドがいて、ガイドは僕や鳴海です。その3つのキャラクターが物語を進行させていくんですけど・・・。こんな説明でいいのかな(笑)。
権八:大きく言うと、夫婦の関係と、夫が実は侵略者であるというストーリーと、長谷川さん演じる桜井と高校生のカップルが。
長谷川:そうです、高校生の若者がまた侵略者で。要は侵略者が3人いて、3人で地球を支配しにしようと来ていると。地球人から概念を奪っていて。ガイドになった人間、鳴海と僕が演じる桜井は概念を奪われないと。・・・そういう話ですね。
一同:(笑)
権八:概念を奪うという発想が面白いですね。
澤本:そう、面白いんだよ。たとえば、僕が侵略者とするじゃない。権八と会って、「エロという概念は何だ?」と聞くわけ。
権八:僕は全くわからないですね。
澤本:いや、いっぱいあるでしょ(笑)。侵略者の僕は権八が頭に思い浮かべたエロを権八のおでこに触って取っちゃうの。すると、僕の中に権八のエロが蓄積されて、権八からはエロがなくなるんだよ。
権八:すばらし・・・素晴らしくないわ(笑)。エロいことが全くわからない人間になってしまうと。
長谷川:エロの概念がなくなった権八さんになっちゃうんですよ。
権八:その概念が、映画の中だと「家族」などで。
澤本:そう。普段、概念って考えないじゃない。仕事という概念を奪ったりするんだけど、「仕事って何ですか?」と突き詰めて聞いていくと、「あれ、何だっけ?」と、奪われる側も思うし、見てる側も思うわけ。だから、テーマとして「仕事」や普段自分が考えてないような「愛」って何なんだろう、そういうものを自然と考えていく映画です。
長谷川:そういうことを考えさせられますし、ラブストーリーもありますし、サスペンスもあります。いろいろなエッセンスがあります。コメディ、喜劇的なところもあるんですね。黒沢さんの新しい映画という感じがしました。
澤本:「難しいかな」と思って見に行ったら、面白くて。黒沢さんってこんなものを撮る方だったっけ、というぐらいの面白さでした。
長谷川:この作品は演劇が元になってるんです。前川知大さんが書かれた演劇で、2、3回再演をやってるんですね。僕は見ていなかったんですが、戯曲は読んでいたので、これを黒沢さんはどういう風にするのかなと。言ってみれば、黒沢さんは映画作家じゃないですか。いわゆる演劇的なセリフでいろいろなものを説明しなければいけない世界をどういう風に映画でやるのか興味があったんですけど、新しい感じになったと思います。
権八:これまでの黒沢作品に比べて、セリフ量が多いと。もともと舞台でセリフが多いんですよね。
長谷川:はい、黒沢監督の作品はセリフに頼らず、画の力で説明することがほとんどだったと思いますが、今回は演出の仕方がいつもと違ったんじゃないかな。僕もこれが初めてだったので、それはどうなのかわからないんですけど。