黒沢清監督の映画『散歩する侵略者』の見どころは?(ゲスト:長谷川博己)【後編】

リリー・フランキーさんの舞台挨拶にサプライズ出演!?

権八:長谷川さんは吉田大八監督の映画『美しい星』をご覧になりました?

長谷川:見ました。

権八:僕はまだ『散歩する侵略者』を見てないんですけど、ちょっと似てるのかなと。

長谷川:それで面白い話があって、リリーさんから「渋谷の映画館で『美しい星』を上映して、トークショーもあるから見にきなよ」と連絡があったんです。わかりましたと答えたんですけど、チケットがもう取れないんですね。それでリリーさんに「チケットが取れないんです」とメールしたら、「まぁとりあえず来ちゃえばいいよ。大丈夫」ということだったので、当日行ったんですよ。受付で「リリーさんはもう楽屋に入られてます?」と聞いたら、「今はアレだと思います」って言われて。

権八:アレって何だ(笑)。

長谷川:たぶんもうトークショーをやってたんですね。僕はそんなこと全く意識してなくて、電話したんですよ。リリーさんに「そのまま入ってきて」と言われて、劇場からいろいろな人が出てきて、どうぞと言われて入った途端に「長谷川博己です!」と。

澤本:ひどい(笑)。

長谷川:吉田監督とリリーさんがいるトークショーのところになぜか僕も入って。どうしたらいいんだろうと思って(笑)。

権八:面白い。観客のみなさんはうれしいですよね。

長谷川:吉田さんに「ご覧になりました?」と聞かれて、「今日見ようと思って来たんですけど、チケットが売り切れていて」と言ったら、会場に「長谷川博己もチケット買えないぐらいの映画なんですよ」と(笑)。吉田さんとその後、飲ませていただいて、「どうなの、そっちは? これと被るでしょ」と。「そうですね、でも全く違います」と。

権八:澤本さんは両方見てるじゃないですか。似てますか?

澤本:いや、似てないよ。侵略者が出るというところのみだと思って。家族が出るのは当たり前だから。あと、片方はそんなに殺されないし。気持ちよかったですよ。

権八:気持ちよかった?

澤本:僕は血が出る映画が嫌いなの。あと殺しがいっぱいある映画は得意じゃないんだけど、『散歩する侵略者』に関しては全く嫌じゃなかったんですよ。殺すときに躊躇があるシーンは怖いじゃない。

権八:気持ちが入っちゃうからね。

澤本:そうそう。でも、『散歩する侵略者』の女の子が人を殺すシーンはむしろ爽快というか。

長谷川:黒沢監督がずっと演出で「湿っぽい演技じゃなくて、もう少しカラッとした感じでやってください」とおっしゃってたのは、その話と通じている気がしました。

澤本:全く湿度なく、バババッとやっちゃったりするから。

長谷川:最初にテストで殺したところを見て、おっと思うところのシーンも、黒沢さんが「リアルに考えたらそうなんですけど、ここはもう少し欧米の映画のような感覚で、それを見て感じるぐらいにしてもらえませんか」と言われたのが印象的でした。できあがりを見てみたら、なるほどこういうことかと思いました。

地中海の感じなんですよね。地中海性気候の雰囲気というか、カラッとしていて、ジメジメしていない感じが全体的に漂っていると思って。殺しや撃つということを、簡単にバッとやるのが。

澤本:おっしゃること、よくわかります。女の子がいろいろな人を撃つわけですよ。長谷川さんがすぐに撃たれた人を見つけるんだけど、そのときのリアクションがカラッとしてるの。「ダメじゃないか、こんなことをしたら」ということを言っていて。

長谷川:そうなんですよ。

澤本:それも長谷川さんが普段よくされるような、力を入れて「ダメじゃないか!」じゃなくて、サラッと言うの。

権八:人間どうしの感じだと、1人殺されたらとんでもないことだから感情が昂ぶってしまうはずなんですけど、そういう感情移入をさせない演出というか。

澤本:感情移入させないというか、事実として次々こういうことが起こっていると羅列されるんだけど、そこについて1回1回、「これは悲惨だな」「これが憎らしい」という感情が起こらないんだよ。それが蓄積されていくと、映画として面白い印象になっていって。

権八:長谷川さんはこの作品でカンヌに行かれたんですね。

長谷川:はい、行きました。一泊で。

権八:一泊で? どういうことですか?

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