【前回】「京都の伝統工芸を世界に売り込め!「GO ON (ゴオン)」プロジェクト(前編)」はこちら
今回は一緒にプロジェクトを推進してきた西陣織老舗「細尾」の12代目 細尾真孝さん、各務さんの戦略ブレーンとして関わっているソナーの岡崎孝太郎さんを迎え、日本の伝統の未来を俯瞰しつつ、京都から世界に仕掛けていくたくらみを紹介します。
西陣織が最新テクノロジーと融合する
各務:「GO ON」は、クールジャパン的に海外に積極的に進出していくこと、逆に海外から京都に来てもらいラグジュアリーなコミュニティーを体験してもらうこと、そしてグローバル企業との連携にも挑戦しています。
次に何に取り組んでいくべきか、細尾さんが考えていることはありますか。
細尾:ひとつはテクノロジーとの融合です。西陣織は、9000本の縦糸を使う複雑な構造を持つ織物です。1本1本の糸をコンピューターでコントロールして、いろんな種類の糸を複雑に織り分ける技術もあります。
繊維の世界も進化していますから、半導体や生体センサーを織り込むこともできるようになりました。その結果、例えば生体センサーを織り込んだ布で車のシートをつくれば、居眠りすると、自動的に車を停車させるようなこともできるようになるでしょう。
ただし何よりも重要なことは、西陣織は1200年間、美しさを追求し続けてきたということです。ですから、テクノロジーを前面に出すのではなく、伝統工芸の美の中にテクノロジーをどう隠すかということに挑戦しています。
各務:リサーチにも取り組まれていますよね。
細尾:そうですね。アウトドアメーカーのチームと一緒にモンゴルの遊牧民の住居ゲルのリサーチに行く計画があります。美しさの裏に機能性があるというアプローチから、西陣織で住宅をつくれないかなと思っています。
もうひとつ、取り組みたいテーマが「着物」です。着物は長方形の布を組み合わせてできている機能的な衣類です。帯も同様に1枚の布を、折り紙の要領で、立体的に組み立てる構造になっています。着物が最先端のテクノロジーと結び付くと新しい価値を生むのではないか、という発想でマサチューセッツ工科大学の教授と一緒にリサーチを始めました。
岡崎:面白いですね。例えばディープラーニングを使えば、色の違いや織り方など、いろんなルールを一気に覚えさせることができます。そこから、AIがこれまで人間がしたことのない織り方をいとも簡単につくり出すでしょう。
僕らが経験してきたことと違う世界から、途方もない世界が生まれてくる可能性があります。僕らはそれを怖がるのではなくて、美の裏側にある数理みたいに、違う宇宙があることを理解した上で何をつくっていくのか考えることが「GO ON」の次のステージでしょうね。
もうひとつ重要なことは、言葉をつくることです。細尾くんが取り組んでいることを表す言葉は、まだありません。それを「クール」や「カワイイ」といった、なるべく海外の人も理解できるような独特の言葉を体系化する。その言葉によって、外国人が驚いて帰るだけではなく、自分の生活やビジネスに取り込むようになっていくと思うんです。