AIによる「効率化」と人間による「クリエイティブ」の幸せな関係

「効率化」と「クリエイティブ」の幸せな関係

昨今、ビジネスにおいて人工知能が最も活用され、その効果を期待されている役割の一つに「業務効率化の推進」があるだろう。

「コールセンター業務にチャットボットを導入、オペレータ業務をサポートし回答時間を短縮する」という事例を、しばしば耳にするようになった。宅配便の再配達依頼も、これまでは音声対応で数分間かかっていたのが、今はチャットボットを使えば数十秒で完了する。

そんな効率化を目的とした仕組みと、クリエイティブの要素を掛け合わせることには、大きな意味があるのではないかと考えている。

効率化を求められるのは、日常的に利用される業務基盤システムであることが多い。BtoCであれば生活者が直接アクセスし、使うシーン・動機が絞られており、解決したい目的が明確であることが多い。生活者とのコミュニケーションシナリオを想定し、プランニングしやすい条件が揃っているのではないだろうか。また、人工知能にとって学習に適したデータが集まりやすく、精度が上がっていく余地もある。

クリエイターがコミュニケーションの方向性を設計し、人工知能の挙動を制御しやすい利用状況であるなら、クリエイティブ要素を寄り添わせ、広告としての役割を加えることも可能ではないかと考える。

例えば、こういう事例がある。

地方自治体のごみ分別案内チャットボットが話題になった。捨てたいごみの種別を投げかけると、分別方法を教えてくれる。問い合わせ電話の削減とともに、ごみ分別に対する取り組みのPRにも寄与しているようだ。

横浜市資源循環局のチャットボット「イーオ」(編集部補足資料)。

チャットボット導入の目的が効率化であることは間違いない。この自治体では今までも、Web上にごみ分別一覧ページを設け、分別方法の周知に努めてきたようだが、無数にある選択肢の中から、ごみの種類を探し当てる作業のストレスは否定できない。チャットボットとの会話形式にすることで、正解にたどり着くまでの時間・手順は大きく短縮される。

しかし、話題になっているポイントはどうもそこではなく、いわゆる「神対応」にあるようだ。

いくつかの検索ワードに仕込みがあるらしく、問い合わせによっては「雑談」とみなして乗ってくれるし、捨てたいものとして“妙なもの”を指定すると人生相談の名言を返してくれる。この気の利かせ方が受けて話題になり、認知が広がりPRにも成功している。

現在の人工知能は「弱い人工知能」と総称され、自ら考え行動するロボットのような「強い人工知能」にまでは遠く及ばないが、社会基盤の機能を大きく効率化・改善する方向での普及が進んでいくと思う。そこには生活者との日常的な接点があり、生活者のリアルなデータが蓄積されていく。

効率化がもたらす利便性に、心を動かし感動を生むクリエイティブを差し込むことは、目的を持って取り組む人間でなければできない。心の豊かさをもたらす「あそび」の要素を差し込むために、人工知能に寄り添ってみることは、クリエイターにとって無駄にはならないだろう。

そしてもちろん、マーケティングデータ分析に人工知能を活用することで、従来にはなかった観点で生活者のインサイトを掘り起こし、心を動かすようなプランニング、シナリオづくりが実現するようにもなるだろう。

博報堂アイ・スタジオのCreative AI研究所も、こうした人工知能の可能性を見出し、クライアント企業のビジネス課題解決につながる可能性を追究していこうと考えている。

 


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