そこで、今後の企業にとってWebサイトやWebディレクションは、どうあるべきかを考える座談会を開催。Webディレクターとして第一線で活躍する、デスクトップワークス 代表取締役・田口真行氏、ビットエー メディア戦略室室長の中村健太氏、ブランド戦略室室長の高瀬康次氏に語ってもらった。
仕事の幅が年々広くなるWebディレクション
田口:3人ともWebディレクターと名乗っていますが、クライアントの規模、仕事の進め方は異なります。
中村:そうですね。僕の場合は、ユーザーとの接点を持つためにWebサイトを検討しているという段階からの相談が多いです。少し前までは「とりあえず、つくりたい」という制作ありきの案件が多かったのですが、ここ数年は運用に対してどれだけ費用と人材を投下すべきか、最終的に何を基準に成果を判断すべきか、という相談が多いです。
田口:私がWebディレクターを始めた約20年前は、「そもそもパソコンって何に使えるの?」と聞かれる時代でした。その後は、パソコンやインターネットが日常的に使用されるようになり、Webサイトがビジネスにおけるマーケティングやブランディングのツールとして理解されるようになってきました。現在は、運用部分が分からないため相談したい、という依頼が多い段階になっています。
しかし、かといってクライアント側のWebサイトへの理解が浸透したのかと言うと、一概にそうでもなくて。今はメディアやセミナーで他社事例が広く公開されるため、「当社もその領域を強化しなくては」と、あらゆる施策に目を向けるようになり、プロジェクトの軸がぶれていくことがあるんです。もちろん他社事例には価値のある情報も多いのですが、影響の受け方によっては、自社の戦略を惑わすようなノイズにもなりかねない。そうした環境下で、自分たちに必要なものを見定めなければいけない。
高瀬:確かに、本質的なことが問われる時代になりました。5年前までは新しいテクノロジーを使った施策に取り組めば、それなりに目立てる時代でした。でも今は、新しいテクノロジーが多すぎて、少し取り組むぐらいでは注目されない状況ですよね。
そこで何が求められているかと言うと、企業が誰にどんなメッセージを伝えたいか、ということ。従来の広告コミュニケーションと同じ視座に、ようやくWebが辿り着いたフェーズなんじゃないかと思います。
Webサイト運用は内製化できるのか
高瀬:Webは、技術の難易度やコスト感がパッと見るだけではわかりにくく、どうしても専門知識が求められます。企業側のWeb担当者はいわゆる総合職が多く、マーケティングの勉強はされているのですが、実際にWebサイトをつくるとなると、制作の手法や技術的な品質までは、ジャッジできない。
その結果、制作会社や開発会社にオーダーするのですが、その提案の品質もジャッジできない。そうなるとコストだけで選んでしまう。本来、目指していた品質とコスト感覚が、アンマッチになっているのが問題になっていると思います。
田口:技術屋がコントロールしてクオリティを担保している領域を、企業の担当者だけでは見ることが難しい点は課題ですよね。そこを誰が見るのかとなったときに、Webディレクターが求められていると感じます。
高瀬:クライアント側で判断するための選択肢は2つあって、それはITに特化したスペシャリストを雇うか、または信用できるパートナーを持てるかどうか。
中村:企業の中で育成しようと思ったら、なかなかハードルは高いですよね。
高瀬:専門職なので育成することに時間、つまりコストがかかってしまう。誰が育てるのかという問題もありますよね。
田口:クライアント側でも、その問題意識を持ち始めています。私はWebディレクターを育成する法人向け研修をカリキュラム作成から依頼されることが多くて、昔はWebディレクションの基礎知識を1日や2日など、短期間で教えてほしいという内容でしたが、去年くらいから長い時間をかけて人材を育ててほしいという相談が増えています。
高瀬:社会人になってから、ずっとインターネットに触れてきた世代が管理職になってきたことも影響として大きいでしょうね。
中村:たしかに内製化の動きは、この2、3年で進んでいると言われています。まだ、そこに取り組んでいる企業は少ないとはいえ、これからしばらくは内製化に向けて、制作会社で10年や20年、キャリアを積んできた人と対等に話ができる人を育てる方向になるのではないでしょうか。
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