クリエイターの“使いどころ”が変わってきた
—今年佐々木さんは、カンヌライオンズで「Seed Creativity」をテーマに講演しました。次世代のクリエイティビティということですが、どんな内容ですか?
佐々木:そんなに新しい概念ではなくて、クライアントが商品やサービスを構想する段階からクリエイターが参加できれば、商品そのものもそうですが、最終的なクリエイティブ・アウトプットがもっと面白くなるという話です。例えばいま電気自動車を発売するとします。
その時に必要なのは、電気自動車のよさを伝える広告よりも、電気自動車をどう位置づけたら世の中に必要とされるかを考えることだったり、充電できる場所が少ない状況でみんなが助け合える仕組みを作ることだったりします。そのためには、開発の初期段階から相談してもらえた方がいいわけです。メーカーは技術発想、僕らはユーザー発想で考えて、その掛け合わせでいいサービスを生み出せる。
ビジネスの上流から参加するといっても、急に僕らが数字を操ってコンサルティングの真似ごとをするというのではないんです。ユーザーの持つ感覚について、僕らは一番詳しいはずなので、それを生かしてもっと貢献できるということです。
澤本:その話は、ここ数年僕らの周りで起こっていることの本質ですよね。佐藤可士和さんが以前から実践しているように、経営とクリエイティブが隣(近い距離)にいて補完し合うと、アウトプットがすごくよくなる。要は「あなた(経営者)の考えている商品は、こうすればユーザーから見てもっと“いい感じ”になりますよ」と言い続けていくということ。
それを商品の根っこからやっていくと、結果的に、最後の広告表現も変わっていきます。「いい感じ」というと相当いい加減に見えると思うので(笑)、文字化するときちんと伝わるかどうかが不安ですが。今年、電通からアートディレクターの戸田宏一郎が独立しましたが、彼もそこに需要があることに気づいた1人です。表現の手前の部分を考えていくことが、クリエイターの役割の1つになっていくでしょうね。
これまでと同じことをやっていては、時代とずれてしまう
—コピーライターやデザイナーからその段階に進むために、何が必要ですか?
佐々木:まずは、いま普通に暮らしている人たちが、社会の何に興味を持ち、どこで泣いて笑うのか、好奇心を持って世の中の変化を知ることに尽きます。昔から広告クリエイターに求められてきた素質ですが、人々の変化は思ったよりも激しくなっている。
女子高生があっという間に自分のスマホで動画を編集して発信するようになっていますし。情報の受け取りかたや共有のしかたが変化しているのに、そこを考慮せずにいきなり従来の表現手法に使うコピーやコンテを書きはじめると、世の中とずれる可能性があります。それから、僕らはもっとマーケットのデータを使いこなした方がいい。
先ほど澤本さんが言っていたような、先輩方の“いい感じ”という肌感覚の中には、実はたくさんの経験を通じて得たマーケットインサイトが入っていたのだと思います。普通の人がその域に達するのは大変ですが、今はデータから発想し、説得の材料としてデータを使うこともできる。データを味方にすることで、偉大な先輩方の領域に入りやすくなっています。
澤本:表現でしかものが動かせないと思われていた時と比べて、「クリエイター」の言葉の含む概念は広がりましたよね。どんな分野でもアイデアを使ってものを動かす人はすべてクリエイターなんだと。カンヌの拡大が典型的な例です。
ただその中で、コピーライターやCMプランナーなど、表現に特化した人も昔通り「クリエイター」と呼ぶから、広義と狭義のクリエイターがごっちゃに議論されて、難しいとよく感じるところです。僕がいつも言うのは、広い意味のクリエイティブ(アイデアを使ってものを動かす)はもちろん大事、でもその人の得意分野がないと仕事が振りづらいし、いい制作物や結果を期待されないよ、ということです。
佐々木:専門性は絶対に必要ですよね。その専門性も、デジタル、PRなど以前よりも広がりました。どこか深く根づいたものがあって初めて、横への広がりが生まれるというのは、コピーライター出身の僕自身も経験していることです。コピーライターとしてはへっぽこでしたが、その視点があったからこそ、デジタルの領域に行った時に、あれもこれもできるじゃないかとアイデアが生まれた。だから、若手には「2つの分野を深く経験してみたら?」と言い続けています。
編集協力 電通