澤本嘉光✕佐々木康晴「『正しい』よりも、予測のつかないアイデアを!」

クリエイターに求められるのは、「化ける」アイデア

澤本:正しいディレクションは、ストラテジストやコンサルタントの方でも、セオリーに従ってやっていけばできると思うんです。さらにその先にどのくらい「正しくないけど新しい」要素を入れられるかが、真の「クリエイティブ」なんじゃないか?と思っているんですよ。すべてが正しくて、品行方正なキャンペーンは、結果は出ても、「化ける」ものにはなりません。

そこをあえて一部を異質にして化けさせるのがプロだと思っています。機械ではなく、人間だからできることでもあります。僕たちはクライアントから「魔法をかけて」とお願いされているようなものだと思うんです。魔法はある種個人の能力によるもので、それは何かに特化しないと出てこないから、コピーなど何かしらのプロであることが大事、という先程の話に戻っていくんです。

佐々木:数値化や計算が不可能な要素をいかにつくるかですよね。今はデジタルで目先の数字が見える分、計算可能な範囲の中での最大効率化に走りやすくなっています。PDCAを回して数字を上げなきゃと作り手が不安に感じている空気もある。その中で“数値化はできないがこれは面白くなる!”という案を、どう納得してもらうかは難しいのですが、デジタルは決して表現をつまらなくする道具ではありません。僕は、表現の可能性を無限に増やすものだと信じています。

澤本:数値を全部計測できる、全体が計算式になったようなキャンペーンは増えていますよね。一方で面白いのは、そういう計算式の世界を極めたスタートアップ系の人たちから、「とにかくクリエイティブなアイデアがほしい」と注文が来ることです。正しいアイデアは全部自分たちで考えられるから、自分たちが思いつかないようなものをくれ、と。そこに一種の「答え」があるんじゃないでしょうか。

若い人には「もやもや」するより「ガツガツ」してほしい

—どうすればそこまで突き抜けられるのか、進む方向に悩む若手クリエイターは多くいます。お2人からアドバイスはありますか。

澤本:繰り返しになるけれど、若い人たちはまず自分がどこに特化していきたいのか意思を持っていた方がいい。コピーライターなのか、映像なのか、PRなのか。賭けですが、それは昔から同じことです。全部に張るより1つにかけて伸ばす。そこでは人よりも明らかに強いと言える人間になる。全部そこそこにできる人は、突出しないで終わってしまう可能性があるので。

でも重宝はされると思うので、その重宝される感じを目標にするならいいと思います。僕自身は、どこかで尖ることで自分を確立したいし、そのおかげで全体キャンペーンを引っ張れるようになる存在がいいなと思うだけです。自分は映像でやるんだ!と決めてうるさいくらい言って、それなりに真実性があれば、周りもじゃあ映像の仕事はアイツに振ってみようかとなりますから。人より何が優れているか、に限る気がします。

佐々木:迷っていると、結局僕らから見ると、みんな同じに見えてしまうんですよね。もやもやと迷っているなら、とにかくガツガツしてほしい。ガツガツのやり方の1つは、ダメだと思っても1つの穴を掘り続けることです。もう1つは、手薄なところを探してチャレンジすること。発見してもらいやすいように、もっと手を高く上げて意思表示した方がいいと思います。

澤本:こういう話をしていると現場のことを知らずにと思われるかもしれないけど、打ち合わせの場でもよく感じることなんです。運動神経みたいな話だと思うんです。広告を運動に例えると、50人のクラスの中に運動神経のいい人はだいたい10人くらいいるでしょう。そういう人は、野球の代わりにサッカーをやらせてもうまい。特殊なジャンルとは別に、全体の運動神経ってありますから。広告会社にいる人は、ある程度広告の広告の運動神経がいい人が集まっているはずなので、後は、伝え方の問題なんじゃないかと。

今の若手の中には、ネットで拾った猫の写真の横に2行ぐらい説明を書いて、「アイデアです」と持ってくる人もいます。これでWebコンテンツにもテレビCMにも全部なると言うけれど、じゃあ誰がそれをCMにするの?と。CM単体としては商品への落とし込みが全くできてない。おそらく元々のモチベーションの違いで、CMのセリフも演出もできれば自分で全部やって、自分の考えた映像を作りたい!と思っているか、元の案が自分ならそれで満足、あとは誰かがやってくれる、と思ってくれるかですね。

プロって、自分で全部その分野についてはやれてしまうことなので、そういう人が必要だと思いますが、減っていると思う。ある分野のプロだけど全体もきちんと考えられる、が重要なんじゃないかなと思います。打ち合わせに、「今回自分は全部CMだけでアイデア考えました!」とコンテだけを持ってくる人がいても全然いい。商品への落とし込みまで書き込まれたCM案の方が、結果的に他メディアへのアイデアの広がりも出るはずです。ある部分で突き詰めて考えている人のほうが、アイデアもその人自身も化けると思います。

佐々木:「コアアイデア」という名の薄いものが集まりますよね(笑)。デジタルの領域でも、幅広くバズりそうな薄い案を考えるのと、毎日使われるためのアプリに必要なUIや機能を全部書きだした濃い案を考えるのでは、その後の伸びが全く違います。

澤本:先程の「クライアントに対して僕らは化ける案を出すべき」という話と同じですよね。若手にとって僕らはプレゼンの相手。クライアントも僕らも、自分たちからは出てこない、予測のつかないアイデアを提案されるのが一番嬉しいんですから。

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左)澤本嘉光(さわもと・よしみつ)
電通 クリエーティブ・ボード/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター
右)佐々木康晴(ささき・やすはる)
電通 第4CRP局長/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

澤本嘉光(さわもと・よしみつ)
電通 クリエーティブ・ボード/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

1966年生まれ。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・ チョ!」、家庭教師のトライ「ハイジ」など次々と話題のテレビCMを制作し、乃木坂46、T.M.RevolutionなどのPV等も制作。映画「ジャッジ!」の原作脚本や、東方神起などの作詞も担当している。

 

佐々木康晴(ささき・やすはる)
電通 第4CRP局長/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

1971年生まれ。電通入社後、コピーライター、インタラクティブ・ディレクターを経て、2011年からニューヨークに出向。帰国後の現在はデジタルのクリエイティブを推進しつつ、Dentsu Aegis NetworkのECDも兼任している。国際広告賞の審査員経験や国際カンファレンスでの講演も多数。

 


編集協力 電通

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