ビッグデータ時代のDMは、お客さまの“コンシェルジュ”の役割を果たせる

Many to Manyをつなぐコミュニケーション設計が必要

佐藤:デジタル時代の今、自社ブランド・商品に関する情報流通量を増やすことはもちろん重要です。しかし、量を増やそうとするがゆえ、質が落ちるのは避けるべき。あらゆるタッチポイントにおけるエクスペリエンスの質の積み重ねが、ブランドをつくり上げていくからです。例えば、商品の新しい使い方や役割、社会との関係など、これまでは知られていなかった価値に気づかせるような情報を届けることは、良質なコミュニケーションと言えると思います。

椎名:ブランドとは、そうした多様な価値の集合体であると言えますね。

佐藤:はい。15秒・30秒のテレビCMでは伝えきれない価値がたくさんあります。ブランドや商品が持つ価値は本来多面的なもの。ひとつの商品でも、接する人によって感じる価値はさまざまに異なりますし、価値を伝えるべき相手もターゲットだけではないはずです。つまり、伝える価値と伝える相手の組み合わせ方は無限にある。その“Many to Many”をつなぐ、丁寧な設計が必要だと思います。

企業・ブランド・商品と、顧客・暮らし・人生の間に良い接点をつくり出すことがマーケティング・コミュニケーションの本質。DMは、多面的な価値を持つブランドと多面的な存在であるお客さまをつなぐコミュニケーションを、解像度高く実現できるメディアと言えますね。

日本ダイレクトメール協会 専務理事 椎名昌彦氏

椎名:デジタルマーケティングでは、相手に合わせて最適化したコミュニケーションを行うことがもはや基本ですが、紙メディアで同じことをしようとすると非常に手間がかかり、これまではなかなか取り組みが進みませんでした。しかしバリアブル印刷をはじめとする技術の進化により、その課題も解決されつつある。データを基に相手に合わせた多面的なコミュニケーションを行うことが可能になっています。

—お二人の、DM活用アイデアを聞かせてください。

佐藤:相手のラーニングにつながるようなものがいいですね。届けば届くほど、受け取った人にとって役に立つ、学びが蓄積されていくようなDMは、まだ存在しないように思います。

椎名:顧客データを活用する環境の整備が進んだことで、属性データはもちろん、購買履歴やWeb行動履歴を組み合わせれば顧客の興味・関心までわかるようになりました。「アナログメディア」と捉えられていたDMも、顧客データを活用することで、デジタル広告並みの精度でターゲットに届けることができるようになっています。

その環境下、今後求められるのは、一人ひとりにぴったりの商品を提案してくれるDMではないでしょうか。情報の取捨選択や判断に負荷がかかる複雑な商品・サービスが増えている中、データを基に「あなたにはこの商品が最適です」と提案してくれるDMは、重宝されるのではないかと思います。

ビッグデータ時代の広告・コミュニケーションは、お客さまの“コンシェルジュ”のような役割を果たす必要がありますし、またそれが十分可能となっています。DMを、そんなコミュニケーション手段の代表として、進化させていきたいですね。

佐藤:ポストを開けるのが楽しみになる、そんな気運を盛り上げる気概を持って、僕らクリエイティブに携わる者は一つひとつ良いDMをつくらなければならないと思います。心のこもったもの・丁寧につくられたものは、受け取ればわかります。読むに値するものか、受け手はすぐに判断できるのです。そう考えると、内容はもちろんのこと、紙質も含めた“しつらえ”も、重要な要素です。量的(費用対効果)だけでなく、質的にDMを評価する流れが強まれば、DMの活用可能性はさらに広がっていくのではないでしょうか。



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