シナリオ大賞は「審査員に5ページ目まで読ませる」が勝負
一倉:金子さんはシナリオの書き方をどこかで習ったわけではなく、公募の賞に出した作品の入選がデビューのきっかけだったそうですね。
金子:はい。その前に、一次選考すら通過しなかった経験もあります。今思えば、自分の好きな世界だけを書いていたのが敗因でしたね。そこで自分はシナリオライターに向いていないんだろうなと思って、1年ほどシナリオを書くことも忘れていたくらいです。
ただ、宣伝会議の「CMプランニング講座」を受講した際、クリエイティブディレクターの箭内道彦さんが、公募の賞の審査に携わったとき「どの作品を残して、どの作品を落とすか」という視点について話をされたことがあったんです。
その話が非常に腑に落ちて、それからは「どうすれば審査員が残したくなるか」という視点を持ち始めました。何千通という作品が応募されてくるのなら、一次審査では最初の3、4ページだけしか読まない審査員もいるはずで、それなら冒頭に惹きつける内容を持って来ようと。
一倉:物語は、つかみが大事だということですね。
金子:「どうすれば審査員に5ページ目まで読ませることができるか」という視点を持って、理詰めで書くようになりました。それから、中盤は読み手を飽きさせないように各キャラクターを活かしたり、終盤にどんでん返しを持ってきたりといった枠組みを考えて書き上げました。その作品を応募したところ、フジテレビのヤングシナリオ大賞で大賞を頂き、伊藤淳史さんの主演で『初仕事納め』というドラマにもなりました。
一倉:『初仕事納め』のつかみはどのようなものでしたか。
金子:入社初日に遅刻した新入社員が出社後に土下座をして顔を上げたら、社員全員から土下座をしているという場面からはじまる、「初仕事」と「仕事納め」が同時に来る物語です。
一倉:それは先を知りたくなりますね。コピーの場合は長くても十数行ですけど、一、二行目は最後まで読んでもらうための勝負になるわけで、考え方は近いと思います。それにしても、60分の内容を書くわけですから、コピーライターからしてみると相当体力があると感じます。