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イギリスのOffice for National Statisticsが今月発表した労働生産性の分析レポート。これは衝撃的です。イギリスを100としたとき、G7でもっとも生産性の高いドイツにおける労働時間あたりのGDPは130超。イギリスを除くG7の平均は120弱で、イギリスの生産性がとても低いことが浮き彫りになっています。
では日本はと言うと、さらに低く、90を下回ります。G7で圧倒的な最下位です。「労働時間あたりのGDP」という数字をどう見るかには様々な視点があるでしょう。しかし、同じGDPを生み出すのに、我々日本人がその他G7諸国と比べ、異常に長く働いているのは厳然たる事実です。我々広告界がこの数字にどう貢献しているかは言うまでもありません。
このレポートが発表された週は、たまたま色々重なって、ワークショップ、ブレスト、パネルディスカッションなどに合計10回以上参加していました。ドイツ人、アメリカ人、イギリス人、オーストラリア人、日本人など、それぞれのモデレーターは国際色豊かです。
そこで気付いたのは、日本と欧米ではミーティングの目的意識が根本的に異なる、ということです。これはミーティングだけではなく、仕事そのものの目的意識にも繋がっていますが、この目的意識の違いこそ、上記の仕事の生産性を大きく分けるものと考えるのです。
広告界はことに合議が多く、かつブレスト、ワークショップなどバリエーションも豊富だと思いますが、いずれの合議においても、議論の混沌から一つの結論を出すやり方として、日本人は正統性(決め方の正しさ)を、欧米人は創造性(結果の新しさ)を重視します。
そして、
- 仕組み・フレームワーク
- 心がけ・マインドセット
- 重視されるスキル
がそれぞれを目的として形成されています(日本型には、欧米発のものをアレンジした結果、ミックスされている場合もありますが)。
例えば、日本的フレームワークは多数決、あるいはそれに準じる決め方を好みます。あるいは、順番に全員に意見を聴いていき、合意形成を図るような進め方を好みます。これはミーティング以外でも同様で、根回しが出来ないと「あいつは仕事ができない」というレッテルを貼られ、仁義を切ったか、などという言葉が日常的に飛び交います。ここでは「合意形成」がミーティングや仕事そのものの目的になっています。
欧米的なフレームワークでは、全員が順番に発言することは極めて稀ですし、多数決で決を採るということはありえません。ビジネスにおける合議の目的は、合意形成ではなく、一人でできる以上に創造的な(新しい)何かを生み出すことだからです。ロクでもない結論に合意を形成してどうするの、ということになります。
結果として、欧米的な会議では、洞察力、混沌とした状況に補助線を引いて、本質を単純に理解し、説明する能力が求められます。例えばアナロジー(たとえ話)。日本式では、これはあまり重視されません。なぜなら、多数決や空気による合意形成が混沌を置き去りにして結論を出してくれるからです。そのかわり、根回しや気遣いを利かせて、巧みに、時には強引に合意を取り付けられる人がデキるやつ、ということになります。
実はこのあたりが、欧米社会で日本人ビジネスパーソンが評価されにくいことの本質です。英語でもシャイなことでもありません。仕事の目的意識。どっちが悪くてどっちが良い、ということでもないと思いますが、英語のみならずこの辺りの感覚の違いをこそ、我々日本人はもっと意識すべきです。
少し脇道にそれました。そして、想像に難くないと思いますが、この合意形成をゴールとする文化は、生産性と非常に相性が悪い。まずはプロセスそのものにより時間がかかります。根回しが必要なうえ、全員のスピークアウトと投票(のようなもの)が必要なわけですから。一回のミーティングでは結論がでず、ではもう一回、となったりする。
また、合意形成は結論が斬新である・創造的であることを保証するものではなく、むしろ逆に角が取れた平凡な結論に落ち着くことが多い。すると、新しい価値やビジネスが生まれる可能性は低くなり、これもまた生産性に悪影響を与えます。
日本の広告界は、アウトプットの質は高いものの生産性に難がある、というのが働き方改革のスタート地点です。では日本の広告界が「生産性で」世界に伍していくためには?まずはここで論じたミーティング、ひいては仕事全体の「目的意識」を変革していかなくてはいけません。合意形成を目的としない、ということです。ミーティングのフレームワークのみならず、マインドセットとそれを育む大元の文化、さらには個人の能力とその評価システムまでを含んだ大改革になりますが、働き方改革の根本ここにありです。