「結果も大事だが、応募過程と受賞例に盛り込まれたPRスキルのシェアにこそ意義がある」というPRアワード。そこで、昨年からPRアワード審査委員長を務める嶋浩一郎氏(博報堂ケトル 代表取締役社長・共同CEO)と審査員の上岡典彦氏(資生堂 コーポレートコミュニケーション本部 広報部長)に、エントリーの醍醐味を聞いた。
世界で勝負できるPRパーソンを育てたいから、クライテリアも世界基準!
—2015年の審査基準(クライテリア)の刷新に続き、昨年はエントリーフォームや審査委員会の開催方法をリニューアルしましたね。応募案件も多様化したと聞きましたが、審査してみていかがでしたか?
嶋浩一郎 審査委員長(以下、嶋):PRアワードも時代の変化に合わせて変化してきているわけですが、昨年はPRアワードの大幅なリニューアルを行い、「PRは合意形成のためのコミュニケーション活動」と再定義しました。新しいライフスタイルや概念を世の中に定着させていくために、どんな戦略(Strategy & Research)に基づき、どんなアイデア(Idea)で、どんな策を実行したのか(Execution)。それによってどのような成果(Results)がもたらされたのか。この4つが新しい審査基準です。世界で勝負できるPRパーソンを育てたい思いがあって、海外にも通用する、世界基準のクライテリアに刷新しました。
上岡典彦 審査員(以下、上岡):審査員としての率直な感想としては、贅沢な時間を過ごした、と感じています。昨年は107件のエントリーがありましたが、エントリーシートを拝見していて、世の中にはこんなにもたくさんの課題があるのかと驚きつつ、それに立ち向かおうとしている人たちがこんなにもいることに、勇気づけられました。
嶋:リニューアル後は部門賞の用意がありませんが、エントリー時にイメージが湧きやすいように、5つの部門を設けたことで、案件の幅も広がったように思います。昨年のグランプリは、経理・出張管理サービスのコンカー(東京・千代田)による「スマホ利用による領収書電子化を実現した規制緩和PRプログラム」です。井之上パブリックリレーションズがエントリーしました。その他、ゴールド4件、シルバー4件、ブロンズ10件が選ばれました。
上岡:コンカーは、PRの可能性を感じさせる、素晴らしい事例でした。使用した領収書は原本を7年間保管しなければならないという世の既存システムに疑問を抱かせ、メディアだけでなく競合会社や業界、政党や政府までも巻き込んで、ついには規制緩和によってスマホ利用による領収書電子化を実現しました。新しいライフスタイルを提案・定着させるために、あらゆる手段を使っていたところもPRのテクニックの多様性を指し示していましたね。
昨年新設されたインターナル・コミュニケーション部門からは、ポーラ・オルビス ホールディングスの「美婆伝(びばでん)」などがシルバーを受賞していました。インターナルの活性化は今、企業にとって一番の課題です。当社(資生堂)社長の魚谷雅彦もよく、メディアに紹介されることがインターナルの活性化につながると話していますが、まさにこれを実現しましたよね。
嶋:成果を出すための手段は自由ですから、さまざまな手法、さまざまなテーマの案件を見ることができましたね。審査員の出自もさまざまで、PRエージェンシーだけでなく、上岡さんのような企業の広報部の方などもいらっしゃいます。4つの審査基準に基づきつつ、多様な視点で審査することを心がけています。
—PRエージェンシーや総合広告代理店だけではなく、企業や団体からのエントリーも可能ですよね?
嶋:もちろん、可能です。企業や団体が単体で応募することも、外部のPRエージェンシーなどと共同で応募することもできます。昨年、企業や団体からの単体エントリーは2~3割でした。
上岡:個人的には、企業や団体からのエントリーがもっと増えてほしいと思っています。昨年は、当社(資生堂)からも4件応募しました。地方自治体からもどんどんエントリーしてほしいですね。
昨年は、岐阜県関市がオズマピーアールと共同でエントリーした「SEKIシティプロモーション」がシルバーを受賞しました。若者層の流出や若者からの低認知度が課題だった関市は、「日本一の刃物の産地」という既存の観光資源を若者向けにアレンジして発信することにしたんですよね。関市が「発信したいこと」よりも、ターゲットの若年層から「求められること」を重視してコンテンツをつくったところがとても面白かった。こういった事例は、東京発だけじゃなく、各地域からもどんどん出てきてほしいです。それがぶつかりあって、うねりができ、スパークしていくほうが断然面白いですよね。
嶋:関市のプロジェクトは3年がかりで成果につなげていましたね。首都圏での若年層認知度は51%まで増加し、経済効果にも寄与。これらの施策で約6割の市民の方が関市を誇りに思い、情報発信したいと、シビックプライドを抱くようになりました。ブランディングにつなげるためのやり方はさまざまです。関市のようにじわじわと育てていくという方法もあれば、新商品のローンチなどで、まずは短期的な成果を上げるほうが効果的な場合もあります。予算の大小や、実施期間の長短にかかわらず、4つの審査基準のどこかに褒めるポイントがあれば、審査では評価します。むしろ、予算や期間の違いを越えて、さまざまな“技”が、一堂に会することに意味があります。