資生堂が「自前主義」から脱却しようとしたワケ
嶋:企業としても、PRに臨む姿勢が変わってきているということですね。
上岡:そうです。というのも、企業がPRに求める成果が、明らかに変わってきているからです。以前、マーケターがPRに求めていたのは、新しい商品やサービスを市場に導入する時の記者発表会を成功させたい、メディアに露出させてほしい、といったことでした。今は違います。発表会を成功させたいのはもちろんですが、着実に売り上げにつなげたいという思いのほうがより強い。もっと言うと、会社の一員としてだけではなく、“社会の一員”としての意識が高まっているので、自分のつくった商品やサービスで誰が笑顔になったのか、誰を幸せにしたのか、までをも追いかけたいと思うようになっているんです。
嶋:売り上げや認知度を上げることだけじゃなく、自分の仕事が世の中をどう変えるのか、人の生活をどう変えるのか、という視点で臨んでいるんですね。
上岡:そうです。資生堂では、長らくPRエージェンシーや総合広告会社のPR部門とは協業してきませんでした。ずっと自社内で広報活動を完結していたのです。しかし、私は、広報部長に就任して間もなく、その“自前主義”からの「脱却」を打ち出しました。“自前主義”は、カッコいいですし、とても美しい姿だと思いますが、そのリソースで最終的に目指している“成果”に到達することができないのであれば、意味がありません。商品が売れることでたくさんの人がその商品を使い、その一人ひとりの生活をより良くして、笑顔に貢献する。そのために商品開発に投資をし、広告宣伝費を使ってプロモーションを行っているわけです。絶対それを実現するという強い思いがありながら、自分たちの力だけでそれを実現できないのなら、あるいは、少しでも早くそれを実現することができるのであれば、活用しない手はないですよね。
尾上:最近、コンカーのマーケティング本部長の柿野拓氏は、「発注力が大事」と、よくおっしゃっています。「自社内でどこまでやると効率的で、どこから先を外注したらさらに効果が高まるのか。それを見極めるには、自分たちもPRのことを勉強しないといけないし、そのPRエージェンシーのことを知らなくてはいけない」と。
嶋:外部のPRパーソンは、他の業界のことも知っているのが強みですよね。たとえば高級車からお菓子のPRまでを経験していたりする。まったく違う業界の、まったく異なるスキルが意外に役立ったりすることがある。でも、自社のブランドのことをずっと見つめてきたからこそ、わかることもあります。外部のPRパーソンも、企業や団体内のPRパーソンも、一緒に仕事をしたり、こうやって事例をシェアすることで、お互いに大きな発見があると思いますね。