また「宣伝会議」2018年1月号(12月1日発売)には、レポートの総集編を掲載します。こちらも、ぜひご覧ください。
2004年、TBWA\Worldwide、TBWA\Chiat\Day出身のクリエイティブディレクターを中心に設立されたAnomaly。現在、NY、LA、ベルリン、上海をはじめ世界7カ所にオフィスを持ち、社員数は650人にのぼる(2年前の2015年当時は420人だった)。今年、アドエイジ誌が発表する「エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」に見事、輝いた。
日本語で「異例」「変則」を意味する社名が表すとおり、同社が目指すのは「広告業界の“Change Agency(変革者)”になる」ということ。ユニークな哲学を持ち、創業以来右肩上がりの成長を続ける同社のCMO・Eric Damassa氏に話を聞いた。
広告業界の慣習を変える3つの取り組み
従来の広告業界のビジネスを変えるため、Anomalyは3つの取り組みを進めている。
ひとつは「広告をすること」からの脱却。P&Gと新製品を開発することもあれば、他のクライアントに最適なオーディエンスを見つける戦略部分の支援することも、コンテンツをつくることもある。日本企業同様、広告をする以外にも自社のクリエイティビティを発揮している。
このことが決して建前でないことがわかるのが、二つ目に同社が掲げる、「タイムフィー」からの脱却だ。「時給×時間数×人数」を請求する米国広告業界において一般的なフィーの取り方は、時間を水増しすれば請求金額が増える不透明な収益モデルだとし、同社ではほぼ廃止している。特定の1社を除くすべてのクライントとの間で、プロジェクト毎ごとに値付けを行い、成果に応じてインセンティブを受け取る収益モデルをとっている。
Damassa氏は「他のエージェンシーが半年かかる仕事を2日で実現したほうが、クライアントは価値を感じますし、私たち自身のコモディティ化も防げます。Anomalyの全利益の30%程度が、インセンティブによるものです」と話す。
そして三つ目は、知的財産を活用したビジネス展開だ。例えば2015年に全米のリップクリーム市場でナンバー1に輝いた「EoS」の仕事においては、当初スキンケアブランドの販促を依頼してきたメーカーに対し、市場調査の結果をもとにリップクリームの新ブランド立ち上げを提案。共同開発を進め、見事トップシェアを実現した。Anomalyはこの仕事で、フィーではなくメーカーの株を取得することで収益としている。
料理研究家のEric Ripert氏とは合弁企業を立ち上げ、マンハッタンの高級レストランの一シェフだったRipert氏の、ブランディングからテレビ番組制作、スポンサー獲得、マーチャンダイジングなど360度のマネタイズ施策を展開。Ripert氏の料理番組「Avec Eric」は米国で権威あるテレビコンテンツの賞「エミー賞」を受賞したほか、Netflixでも配信されている。
そして2016年には、合法大麻を利用したリラクゼーション・プロダクト「Hmbldt」を開発した。カリフォルニアで大麻が合法化されたことを受け、専門知識を持つ医療・化学企業を探し、ジョイントベンチャーを立ち上げ、新しいプロダクトの開発に至ったという。
エージェンシー・オブ・ザ・イヤーのAnomaly、成長の鍵は「IPビジネス」
こうした知的財産を活用したビジネスについて、Damassa氏は次のように話す。「我々の資本を投入し、企業とのジョイントベンチャーで新しい事業を進めることは、クライアントワークを通じた短期的な資金調達とは別に、長期的な“財布”を持ち経営を安定させることにもつながっています。また自らの事業を持つことによって、その経営ノウハウをクライアントワークに生かすこともできるのです」。
現在は新しいデータプラットフォーム「アポロ」を開発中で、近々米国内で特許を申請するという。