「早慶近」「マグロ大学って言うてるヤツ、誰や?」「固定概念をぶっ壊す。」–。挑戦的なコピーが光る近畿大学の広告。
2017年12月号の広報会議の特集「近大マグロに続け!全入時代の大学広報」にて、近大の総務部長・世耕石弘氏と、制作を手がける博報堂・山口尚久氏が明かした。
—今日は、近大の広告制作におけるこだわりをおうかがいします。
世耕:「企業は良い商品を作れば売れる」という傾向が少なからずあると思いますが、大学に関しては良い授業、良い教育、良い研究をしているからといって、学生に必ず評価してもらえるとは限りません。それは、受験生が大学を志望する際に、教授の論文を読んでから熟考して選ぶという人がほとんどいないからです。現実は大学をブランドで選ぶ傾向にあります。しかも複数の大学を括る形で評価しています。
山口:それはどういうことでしょうか。
世耕:大学の序列を示す言葉が存在するのですが、関西でいうと国立大学を一部リーグとすると、その次の二部リーグが「関関同立」、三部リーグが「産近甲龍」に分けられます。私たち近畿大学は、知らないうちにこの三部リーグに位置しているのですが、どんなに上のリーグに行きたいと思っても、受験生の頭の中に植え付けられたリーグ分けを覆すことができないのです。
山口:なるほど。そのような状況にあって、さらには少子化がますます進んでいる中で、総志願者数19万人、4年連続志願者数日本一を実現している近大は、コミュニケーション戦略を重視しているというわけですね。
世耕:そうですね。受験生の頭の中の序列を壊したい。それで制作したのが『固定概念を、ぶっ壊す。』(2014年)という広告です。
山口:近大のマグロが空港から世界に飛び立とうとしている『世界がそうくるなら、近大は完全養殖でいく。』(2011年)、『近大へは願書請求しないでください。』(2012年)、『マグロ大学って言うてるヤツ、誰や?』(2015年)も、従来の大学のイメージを覆した面白い広告ですよね。
世耕:『世界がそうくるなら~』は、マグロの漁獲高制限が世界的問題になっている時期だったので、世界と日本に対して近大の姿勢を突きつけたんです。
世界大学ランキングがヒントになった
—第33回読売広告大賞グランプリを受賞した『早慶近』(2017年1月)も話題になりました。
山口:『早慶近』は博報堂が手がけています。毎年、競合コンペという形でお話をいただいていて、2014年に『固定概念を、ぶっ壊す。』を制作させていただいたのですが、ここ2年くらいはコンペに勝てていない状況でした。スタッフも近大の広告を担当したがっていたので、コピーライターとデザイナーのコンビ3チームで合計30案くらい提案したと思います。
オリエン通りに作っても面白くないので、まずはテーマ探しから始めました。コピーライターの川村健士君が近大のニュースサイト「Kindai Picks」から、8月に発表された世界大学ランキング「The Times Higher Education World University Rankings 2016-2017」で、近大が早稲田、慶応と並んでランクインしているというのを見つけてきたんです。先ほど世耕さんが大学の序列を表すグループ分けの話をされましたが、『早慶近』って面白いんじゃないか、相手を意識した広告によって議論が巻き起こるんじゃないかと思いました。
世耕:『早慶近』って僕らでは思いつきもしなかったですし、さすがコピーライターだなと思いました。納得感もあって語呂も良かったのでコレだなと思いました。世間がどういう反応を示すのかは想像できたので、その後の対応がポイントでしたね。