コピーを精査しリスクヘッジ
—これほど攻めた広告は炎上の危険性もはらんでいると思います。
世耕:ポイントは、徹底的にどんなツッコミが入ってくるかを想定してコピーを精査することですね。大学側は4人のチームで担当していたのですが、SNSを用いて相当な数のやりとりをしながら、「どこまで言ったらどこまで叩かれるのか」「平仮名とカタカナではどうか」など試行錯誤しました。
山口:あのスピード感はすごかったですね。
世耕:今回の『早慶近』に関して言えば、実は世界大学ランキングには東京理科大や順天堂大もランクインしているんです。そこでボディコピーに「私立総合大学では」という文言を入れて、後で突っ込まれないようにリスクヘッジをしています。さらに「みなさまに早々に慶びが近づきますように」というオチも付けて。
山口:今はクリエイターの勇敢さよりも、広告主の勇敢さによってクリエイティブの良し悪しが変わってくると思います。
世耕:読売広告大賞の選考委員の方々のコメントとして、「大胆不敵で懲りないアプローチ、ユーモアがある厚かましさ」といった評価をいただきました。また『週刊ダイヤモンド』の「大学序列」という特集(2017年9月16日号)では、「『早慶近』の広告によって、関関同立の反応は、『あまりにも図々しい、品がない』と総じて冷ややかだ。近大はこれを意に介さない」と書かれていました。新年にたった1度しか出稿していないのに、広告の波及効果はすごい。コピーの持つ力って本当にすごいなと実感しています。
際どい表現も関西弁ならOK?
—クリエイティブの力で今後、どのように他の地域の大学との差別化を図っていこうと考えていますか。
世耕:大阪の大学はハンディキャップがあるんです。東京や名古屋での大阪のイメージがあまり良くないこと、さらに歴史や寺社のある京都と、海や山などに囲まれた神戸に挟まれて比べられるのもネックです。そこでたどり着いたのが、大阪はコミュニケーションの街だということ。面白いことを発信していくことは、47都道府県で唯一大阪だけに許された特権だと思っています。私たちの宝物は関西弁です。際どいコピーで攻めても関西弁だと許されてしまう。
山口:確かに『近大発のパチもんでんねん。』(2016年)という広告も、「近大発のニセモノです」では絶対に成立しない。
世耕:吉本が笑いをひとつの産業にしているように、関西弁のコピーも産業にしていいと思っています。
山口:しかも今回の広告は、オールドメディアと言われている新聞広告が情報元になってSNSで拡散させるという、新聞広告の新しい可能性を示しているとも思います。
世耕:ネット検索で『早慶近』と検索してみてください。1月3日にたった1度しか出していない新聞広告が、9月になった今でも話題になっているんですから。すごいことです。
山口:企業はもちろんのこと、大学も広報と広告が一体化している現在だからこそ、クリエイティブが広報活動の肝になってくるのではないかと思っています。
【巻頭特集】近大マグロに続け! 全入時代の大学広報
少子化が進むなかで今、大学広報の手腕が問われています。その成功例の筆頭とされるのが、近畿大学。近大に続けと、各大学でも広報戦略の重要性が見直されつつあります。さらに産官学連携などを通して、大学の存在意義をいかに示していくか。事例やレポートを通し考えます。
REPORT
「広報ファースト」の近大
どこまで進化し続けるのか
VOICE
近畿大学 総務部長 世耕石弘
「大学広報はもっと自由であれ」
TOPICS
東洋大から女子栄養大へ“レジェンド”が語る
「大学の宝物を売るのが広報」
染谷忠彦(女子栄養大学 常務理事)
2018年問題と「大学広報3.0」
戦略的ポジショニングを描くには?
岩田雅明(大学広報コンサルタント・新島学園短期大学 学長)
DATA
広報体制はどうなっている?
15大学に見る重点施策と組織
東北芸術工科大学/跡見学園女子大学/法政大学/早稲田大学/
金沢星稜大学/北陸大学/立命館大学/龍谷大学/大阪大学/
桃山学院大学/九州産業大学/福岡大学/福岡工業大学 ほか
REPORT
学内の広報マインド育成で
社会評価につながる「産学連携」
・大阪工業大学×コニカミノルタ
・明治大学×フードイズム
・上智大学×あおぞら銀行 ほか
・関東学院大学「K-biz」
VOICE
上智大学 曄道佳明学長
「『教職協働』で組織風土の変革を」
TOPICS
VR入学式で話題の「N高」 開学2年目で広報体制の強化へ
大学広報「できる・できない」の境界線
東洋大学×追手門学院大学
対談「デジタル活用はどうあるべきか」