文化をつくってきた伝統と広告の審美眼
—テレビが置かれていた市場環境や「画王」の広告キャンペーンが成功した背景について教えてください。
垂水:白黒テレビが家庭に普及したのが1950年代の後半から60年代の前半です。テレビがドカンと茶の間にあり、ともすればお父さんより偉いような立ち位置でした。家具調テレビの「嵯峨」はパナソニックの代表的ヒット商品。その後カラーテレビが普及して。正月のプレゼントキャンペーンの定番だったのが、テレビの上に飾るその年の干支の置物でした。それぐらいテレビは娯楽としてもインテリアとしても茶の間の中心的な存在だったんです。「画王」の発売当時は、メーカー各社で激しい販売競争をしている真っ只中でした。
津川:テレビ部門単体で、売上規模が相当大きかったそうだね。
垂水:それだけ重要な商品ですから、CMにも名作が多くて、坊屋三郎さんや千昌夫さんが出演したカラーテレビ「クイントリックス」の広告、ジョージ・ルーカス監督を起用したビデオデッキ、ビデオカメラの広告などは、名高いですね。広告はメッセージを伝えてマーケティング目標を達成させるためだけのものではなく、その国を代表するサブカルチャーでもあると思うんです。パナソニックの宣伝部門は、その点をいつも意識されていて、広告という文化をリードしてきた伝統があります。「画王」の広告表現が実現したのもその伝統の延長線上にありました。
津川:「画王」はネーミングからして良かったね。当時のテレビの商品名は横文字が多かった中で、「画王」はオリジナリティーがあって、飛び抜けていい名前だったな。
垂水:改めて思うのですが、「画王」というネーミングも、王国というアイデアも、「テレビじゃ、画王じゃ!」という台詞も、様々なアイデアの中から宣伝部門と協働して選んだことに、ポイントがありました。彼らの判断の鋭さには私も驚くキレがありました。
「画王」だけでなく、当時「松下学校」と呼ばれた宣伝部門でたくさんの広告をつくらせてもらい、たくさんのことを学びました。そのおかげでしょうね、どんなクライアントと仕事をしてもやれるという自信がつきました。CMは、出来上がりの映像の美しさ以上に、いかに伝わったかが大切。これも学んだことのひとつです。目立つ工夫、覚えてしまう工夫があってはじめて、企画が通りました。
津川:垂水さんが作詞した「画王」のCMソングに、「見たこともない夢をあげましょう」という歌詞があってね。このフレーズは、役者としても座右の銘にしているんだ。これまで見たことのない、誰も経験したことがない夢の世界にお客さんを連れて行くこと。これは、広告だけでなく、映画などのエンタテインメントも同じ。この価値観は世界共通だね。
垂水:ありがとうございます。その通りですね。インターネットの台頭で、商品やメディアの環境は大きく変わりましたが、消費者は「どんな面白い夢を見せてくれるだろうか」を待っている。これからの時代の宣伝においても、そのことを一番忘れてはならないと思います。
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