モチベーションをデザインする
—箕輪さんはNewsPicks Bookで毎月ビッグネームの著者と組んで本を出版されていますが、その中で岸さんはどんな存在でしたか。
箕輪:僕は岸さんの影響をもろに受けていて、インタビューとかされてしゃべっていると、「これ岸さんの言葉パクってるわ」って思うことが結構あるんですよ。よく使っている「努力は夢中に勝てない」という言葉も、考えてみたら岸さんの言葉だったなって(笑)。それとNewsPicks Bookで言えば、これは勝手な僕の趣味だけど、年間12冊揃ったときに最強のアウトレイジ集団にしたいんです。
岸:そんな構想があったの?「全員悪人」みたいな(笑)。
箕輪:「全員悪人」の中に岸さんという最高のピースがドーンってハマった感じです。僕は死ぬ前に自分でつくった本を並べて、「いやあ、揃いも揃ってこんな悪人をよく並べたな」って思いたい。完全に自己満足な世界ですけど(笑)。その中で岸さんは本物の刀を持った人でしたね。
岸:一部の人は知っていると思うんですけど、僕は結構な武闘派でして、著名な方々に対談を断られたりします(笑)。
箕輪:だって岸さんって、対談なのに刀を持っていくみたいな人ですよ。相手のいいところとかはどうでもよくて、その人が一番隠している部分を世に晒して、散々蹂躙して、帰っちゃうような人。だから言葉の強さもそうだけど、やっぱり顔つきや体つきも極端ですからね。武闘派。
岸:ちょっと待って、それって全然褒めてないよね(笑)?
箕輪:僕はとにかくあらゆる業界でトップであり異端な人と仕事をしたいので、広告界では岸勇希なんですよ。見城徹にせよ、ホリエモンにせよ、格闘技の青木真也にせよ、広告の岸勇希にせよ、ヤバいし、面倒くさいから、もう誰も立ち向かってこない。なのに常に誰かと戦おうとしているじゃないですか。
もうみんな戦意喪失しているのに毎朝「よし!絶対勝つ!!」とか言ってそうだし、全員降伏しているのに「クッソ!絶対に許さねぇ!!」って言ってそうな人たち(笑)。とにかく常に何かと戦って誰かを殺そうとしている。でも僕は、そういうヤバい人が大好物なんですよ。
—岸さんは最近モチベーションのデザインについてもお話しされていますが、チームとしてモチベーションを上げる際には、どのようなコミュニケーションを設計するべきでしょうか。
岸:ポイントはいくつかあるんですけど、例えば僕は大企業の社長とか役員に対してプレゼンしたり、話をさせてもらう機会があって、そういう場では「みなさんは異常ですからね」という話をします。何が異常かって、僕や箕輪さんも典型的なんだけど、そういう人たちって湯水のごとくモチベーションが湧いているんです。だからモチベーションがないという状態がよくわからない。
でも世の中のほとんどの人はモチベーションがないというか、小さかったり、弱かったりするわけです。そもそもモチベーションというのは、とても尊くてか弱いものなんです。そう考えると、モチベーションを付与するという発想が違う。つまり、付与する設計ではなく、モチベーションを奪うものを排他する設計が必要なんですね。なぜなら、モチベーションは奪われやすいから。
特に立場が弱い人たちのモチベーションは弱い上に繊細でもある。それなのにモチベーションが常にある人たちは、どうしたらモチベーションが上がるのかをひたすら考えてしまいがちで、「モチベーションが奪われる?奪えるなら奪ってみろよ!」となってしまう。
箕輪:奪われることがまたモチベーションになる人たちですよね。
岸:そうそう。幻冬舎の見城社長なんかはまさにそういう人ですよね(笑)。どういうことがモチベーションを奪っているかを丁寧に分析して、その要素を一つずつ取り除いていくことが、チームビルディングにとっての重要なポイントです。それによって、組織としてアンフェアな状況をつくらない。
すなわち、頑張った人が評価されず、頑張ってなくてもうまいことやった人が評価されるような「正直者がバカを見る」ことを徹底排除して、フェアであり透明性が高い環境をつくる。それがモチベーションをデザインするためには必要なんです。ちなみに、モチベーションに関する本をそろそろ書こうかなと思っていて、それは『己を、奮い立たせる言葉。』とは違う、『コミュニケーションをデザインするための本』のように自分の実務として書く予定です。
「ありがとう」は世界を救う究極の言葉
—お二人は、今後、出版界や広告界はどうなっていくと考えていますか。また、それぞれどんな人材が求められると感じますか。
箕輪:出版で言うと、僕は岸さんに学んだことの影響を受けていますね。宣伝会議の講義を一回見に来ればと言われて、そこで聞いたのがコミュニケーション・デザインの話だったんですが、岸さんが言っていたのは、広告というのはクライアントの課題解決にとってあくまで手段の一つなんだと。
広告会社はクライアントが「傘がほしい」と言えば、世界中の傘を探し回って揃えたり、ものすごい機能をもった傘をつくったりしがちなんだけど、そうではなく、要はクライアントが望んでいるのは雨に濡れたくないということなんだから、それを解決してあげることが大事だと言っていて。
そこで聞いたことは、僕の編集者としての生き方にも刺激を与えてくれました。つまり、「編集者とは何か?」と考えたときに、「紙の本をつくる人」ってこれまでのように定義するのではなく、「自分が良いと思ったモノをコンテンツにする」とか「埋もれているモノの魅力を世の中に届ける」などと再定義すると、編集者は本に限らずあらゆるものをプロデュースすることができる。
その考え方が『編集会議』で話したことにもつながっていて、僕がやっている今の全業種プロデュースするという活動にもなっているんです。時代がものすごいスピードで変わり続けるからこそ、出版界で求められているのは、まず編集者の定義を変えることじゃないですかね。
岸:宣伝会議で初めて講義をさせてもらったのは15年くらい前で、当時は僕も若手だったんですけど、今の箕輪さんの話のように、講義を聴いたり本を読んだりして、影響を受けましたと言ってもらえるのは、やっぱり嬉しいですね。そしてそういう人と一緒に仕事ができるなんて、本当に楽しいというか感慨深いです。もちろん調子に乗った後輩たちのとどめをいつでも刺せるように、これまで以上に鍛えておかなければいけないなって気持ちにもなりますが(笑)。
質問に戻ると、広告界が今後どうなるかっていうのは、僕はあまり興味がない。だけど、どういう人材が求められるかという質問には僕なりの解があって、「楽しめる人」だと思います。広告界に限った話ではなく、あらゆることに言えることですけどね。
それは本の中にもしたためたんですが、大事なのは「楽しい仕事をしているか」ということではなく、「楽しんで仕事をしているか」ということ。例えばある人に僕の24時間を一緒に体験してもらったら、最高に楽しいって言う人もいるかもしれないけど、これでよく生きてられるねって言う人もいると思います。つまり、「楽しめるかどうか」なんですが、みんな意外と「楽しいかどうか」ばかりを問おうとするんですよね。
振り返ってみると、僕は自分の仕事が恵まれているということを最初はわからなかったんです。最初の5年くらいは本当にきつかったし、何をやっているんだろって思うような瞬間はたくさんあった。ただあるときに、こんなに恵まれている仕事はないと思うようになって。
この本の中には入ってない言葉ですけど、僕は「ありがとう」と「ごめんなさい」で、世の中のほとんどの課題は解決すると思っているんです。とくに「ありがとう」というのは究極の言葉で、世界を救える言葉だと本気で信じています。ちなみに人間を殺せる唯一の感情は「孤独」です。孤独というのは、一人ということですよね。一方で「ありがとう」は、他者に自分の存在を認識してもらえる、肯定しもらえる瞬間の言葉であり、自分自身を正当化できる言葉でもある。だから僕は「ありがとう」という言葉がものすごく好きなんですよ。
それで僕がやっている仕事の何が恵まれているかと言うと、世の中の職業の中でも比較的「ありがとう」って言ってもらいやすい職業だということです。「ありがとう」って言ってもらいにくい職業だってたくさんあるからこそ、とても幸せなことだなと。そうした状況を「恵まれている」と思えるかどうかが、「楽しめるかどうか」にもつながってくる。いずれ、日頃「ありがとう」って言ってもらいにくい職業の人が「ありがとう」と伝えられるような仕組みをコミュニケーションとしてデザインしたいなと考えているんです。
—コミュニケーション・デザインという概念は、岸さんが提唱して前著を発売した2008年当時、電通の社内をはじめとして、かなりの反発があったんですよね。
岸:それについては120時間くらいしゃべれますよ(笑)。僕はすごくいい性格をしていて、どうでもいい人からのコメントは無効化できるんです。ただ誰が何を言ったか、どんなダメージを与えてきたかは永遠に覚えている人間です。
電通に入社した当時、雑誌の部署に配属されたんですが、コミュニケーション・デザインを提唱したときに「メディア出身の人間が『デザイン』という言葉を使うな」と言われたのが、僕が知っている中で最も低俗な言葉でした。それを言った人たちは全員滅しましたけどね。「目には両眼を、歯には全歯を」が基本なので。
箕輪:その言葉、本の中でも使いたかった(笑)!
岸:先ほど箕輪さんが、僕が話した傘の話をしていましたが、クライアントは傘が欲しいのではなく濡れたくないのであれば、カッパを提案しても、トンネルを掘ってあげても、ヘリコプターを呼んでも、天気予報を開発してもいいというのが、コミュニケーション・デザインにおけるソリューションニュートラルの考え方です。
ただそれを言うと、「お前、傘屋だろう?傘に誇りはないのか!」と言ってくる人たちがいるわけです。同じように、広告業界の人たちは広告で決着をつけたいし、広告で解決しないと気が済まないというプライドがある。でも別にそんなプライドいらないじゃないですか。結果的に課題を解決すれば手段は問わない。それがコミュニケーション・デザインの本意です。
つまり、僕が提唱したコミュニケーション・デザインというのは、広告の限界を前提とした論理なんです。でもだからこそ、広告業界ナンバーワンの電通がそれを言っちゃっていいのかという反発はめちゃくちゃありました。クライアントをはじめ応援してくれる人もたくさんいましたが、社内からは叩かれることのほうが多かった。それでも結果としては、コミュニケーション・デザインを否定していた人たちは死滅しました。僕が全滅させましたから。そういう戦いの歴史もあったんです。
過去は未来から改ざんできる
—岸さんも箕輪さんも、会社に入社された当初は希望していたのとは違う部署になったということですが、振り返ってみて、希望していない部署で仕事をしたことは、現在に活きていますか。
岸:僕は大学院まで行ってデジタルのことをやり、電通に入っても当然デジタル関連の部署で仕事をするんだと思っていたら、あろうことか名古屋支社の雑誌の部署の配属になったんです。それはもう、想像を遥かに超えるショックでした。
ただそのときに先輩に「もう会社やめたいですよ」って言ったら、「お前、そんなにデジタルできるんだったら、デジタルは仕事でやらなくていいから、新しいことやれよ」って言われたんですよ。「は?どういう論理!?」と思ったんですけど、それに対して怒りつつも理解が上回ったんです。つまり、もともとできることをやるのではなく、できないことをやらせてもらえるんだったら逆にチャンスじゃんということを、その瞬間に気づかされた。
「雑誌になっちゃったけど、デジタルもちょっとはできるからさ」などと中途半端なことを言われていたら、本当に辞めていたかもしれない。それが、「良かったじゃん、やれないことをやれて」って、すがすがしく馬鹿みたいにポジティブな言葉をかけられたことは、僕の中では大きかった。
その結果の一つとして、おそらく日本で最初のQRコードを付けた雑誌をつくったんですが、それはデジタルをやってきた僕が紙をやったからこそだったと思うし、当時としては斬新なことをたくさん経験させてもらいました。最初から楽しい環境ではなかったけど、楽しむように努力をしていて、結果、楽しかったっていう。
箕輪:僕の場合は、新卒で双葉社に入った当初、ある意味で誰よりも編集者らしい編集者だったんです。入社早々、今からどこかに行って記事を一本つくれといきなり言い渡される研修があって、みんな書評みたいなこととか、映画のレビューとかクソつまらないことをやるんだけど、僕は昼キャバに行って役員の写真を見せて「キャバ嬢が選ぶ付き合いたい役員ランキング」という記事をつくったりしていました。
それから、マナー研修を受けさせられたときには、くだらなすぎて「マナー研修という名の茶番劇」ってタイトルで日報を出したら、めちゃくちゃ怒られた。面白いかどうかは別として、編集者としては無難にいかないというのがスタートラインだと思っているけど、会社としては不安になったらしく、スーツを着る仕事をさせないとコイツはヤバいとなって広告部に行かせられたんです。
結果として良かったのは、編集者という仕事を客観的に見れたことですかね。こんな雑誌じゃ広告なんて取れねーよって思っていたし、自分のほうが編集者に向いていて才能だってあるはずなのに、バッターボックスに立てない。俺だったらこうやるなとか、常に考えていました。今思えば、広告部時代に雑誌を創刊したり、編集者になった1年目からいきなり見城さんや堀江さんといった大物と仕事ができたのは、広告部に配属されたことで、編集者への熱を醸成していたからかもしれないですね。
岸:僕自身、最初から自分の行きたいデジタルの部署に行けていたら今よりももっと活躍できていたと信じているけど、かといって雑誌の部署に行かされたことが損失になったとは思っていない。より本音を言えば、当時、雑誌の部署に行かされたことは今にして思えばですが、よかったと思っています。
ただ、「お前、やっぱり最初は雑誌の部署に行ってよかっただろう」って言ってくるような人は全員ぶっ殺したい。「いやいや、そこに行ったことを結果的に良くしたのは俺だから」って。仕事をしていると、自ら環境を選択できる状況はなかなかないじゃないですか。それならば、与えられた環境でがむしゃらに頑張ってみて、未来から過去を改ざんしていくしかないと思うんですよね。
箕輪:本当にそう思います。僕は仕事って、周りから「無理だろ」と思われることをやっちゃうことだと思うんですよね。それで言うと、要は飲み会のネタになるかっていうことなんですよ。ビッグネームの著者の担当を先輩から引き継ぎ、その本が売れても飲み会のネタにはならない。それ、別にお前の力じゃないよねっていう。
でもまだ誰も知らないような人が書いた本を、自分の力とか企みによって世に出せたら、飲み会のネタとして盛り上がるじゃないですか。たぶん、その裏にはとんでもないトラブルや秘話が生まれているだろうし。自分にしかできない方法で無茶をやりきるっていう発想で仕事をすれば、どんなことでも楽しめますよ。
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