「ZOZO SUIT」はECの常識をくつがえす、新しいIoTソリューションになりえるか。

サイズの最適化にとどまらないビッグデータビジネス展望へ

「ゾゾタウン」のようなファッションEコマースにおいて、顧客にとっての最大の障壁は、実際の商品を購入前に試着できないことです。仮に購入したとしても、実際に着てみたらサイズ感が違った、イメージが違ったなどの理由で、返品してしまうリスクがあるわけです。

特に実店舗を持たない「ゾゾタウン」がオリジナルでつくるプライベートブランドは、実店舗を持つ他のブランドで可能な実物の確認や試着のようなショールーミング効果を期待できません。現在、ECが主流になっているアパレル小売でも、実際の購買コンバージョン率は実店舗に及びません。

そこで「ZOZO SUIT」は、商品を事前に試すことができないというリスクを軽減するツールとしての「計測専用スーツ」なわけです。しかし、期待しているのはそのような効果だけではなさそうです。

「ゾゾタウン」は、これまでも多くの商品購入データを元にそれぞれの顧客の好みに合わせたアパレルの提案が実現できていたかもしれませんが、このSUITによってさらにそのエコシステムを強化し、より深い顧客中心のビジネス構築が可能になると考えます。まず身体のサイズを測るこのツールは「その顧客にとって、いま欲しいサイズが何か」を顧客が発注・返品データによって教えてくれます。

「ゾゾタウン」のプライベートブランド構想には、このようなサイズデータによって、顧客にカスタマイズしたサイズのアパレルの投入ももちろん含まれます。さらに同時にいま買われているアパレルのサイズから、サプライチェーンの効率化を加速し、ビジネス的にスケール可能なサイズ展開や数量の予測も可能でしょう。

製造業では「インダストリー4.0」にあるように、顧客の嗜好の幅やスピードによってますます商品の小ロット化、多品種化、製造の短期化が進んでいます。そのような技術と実際の需要を結ぶためには、顧客のデータ収集が欠かせません。「ゾゾタウン」のSUITはそのためのツールになるのです。

「ゾゾタウン」がこのようなツールを無料配布するのも、単に顧客ごとのデータを収集するというより、アパレルにおける現時点でのマクロ視点の最適解を導き出せるビッグデータの形成を目的にしているはずです。

これが可能になれば、多くのアパレル小売事業が長期間かけて、大きな不動産投資や人件費投資を行ってきた実店舗を通した顧客マーチャンダイジングの背景になるサイズデータを、短期間にまったく違う形で、しかも正確なデータで収集できるという利点があります。

次ページ 「「ZOZO SUIT」の懸念」へ続く

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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