「ZOZO SUIT」の懸念
しかしながら、このビジネス展望はあくまで、顧客の行動が実際にこの「ZOZO SUIT」を通して変わることを想定しています。もちろん最初は面白がってSUITを着てアパレルを注文することは容易に想像できます。
ただし、わざわざこのツールを使っても、実際に届いた商品がサイズも含めてイメージと違うなど、フィッティングの役に立たなければ、仮に返品可能だったとしても、顧客はこのツールを毎回、使用して注文するでしょうか。
また一度サイズ計測して入力したら、そのあとはスーツをクローゼットに押し込んで、体のサイズが変わっても、そのまま使用して変更しない人も出てくるでしょう。また実際に計測されたリアルな身体のサイズに幻滅し、「わたしの身体がこんなサイズだなんて有りえない!」と、結果を信用しない人も出てくるかもしれません。(一方でダイエットの成果を測るツールとして活用できるかもしれませんが)
また、服というのはサイズだけでなく、素材や製法、カッティングによって着心地、シルエットが変わってくる商品です。「ZOZO SUIT」の見た目からして、ウェットスーツのような体にぴったりした素材でできたウェアにセンサーを埋め込んで全身を測るようになっていますが、服というのは必ずしも厳密な身体のサイズに即しているわけではありません。着心地が人によって違うように、サイズ感というのもその人の感じ方によって、また素材や服のつくり方によって変わるものです。
服は単に体型にあわせてマッピングされたものではなく、実際は重力があるため、自分の体が服自体の重さを支えている形になってシルエットができています。だからこそ体がどのような姿勢でいるかによっても見え方は変わります。
その意味で「ZOZO SUIT」はただサイズ計測だけでなく、座ったり、かがんだりした際に服がどう引っ張られるか、どのようなテンションがあるかのような感圧機能があればより正確なデータが得られるでしょうが、現時点ではそれはわかりません。また、購入前にそこまでSUITを着て動かないとわからないとなると、試着前に大量のデータが必要かもしれません。
さらに、「ZOZO SUIT」は顧客の嗜好性を直接教えてくれるツールではないので、「ゾゾタウン」としてもまず商品を販売し、このSUITによって発注数が増えて顧客データが蓄積されることが前提になるでしょう。そのような具体的な商品データがあってこそ、次の提案ができるからです。仮に、それを元にプライベートブランドをつくるにしても、その知見が活かされていくのは、もっとずっと先になるはずです。