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文・天野彬(電通メディアイノベーションラボ 副主任研究員)
映画『ザ・サークル』からシェアについて考える
先日刊行した『シェアしたがる心理~SNSの情報環境を読み解く7つの視点~』(宣伝会議、2017年10月31日発売)はタイトルの通り、シェアの心理学のような書籍なのですが、そんな本を書いた立場からひたすらに興味を惹かれたのが、「いいね!のために生きている」というキャッチフレーズのこの映画。
本日は、その11月10日公開の映画『ザ・サークル』をとり上げたいと思います。決定的なネタバレはしませんが、少し本編の内容に踏み込みますので、気になる方は3ページ目の考察に飛んでいただけたら幸いです。
あらすじは、地元で冴えない日々を送っていた24歳のメイ・ホランド(エマ・ワトソン)が、親友からの誘いでワンチャン受けてみたところなんと世界最大のSNS企業「サークル」の入社試験をパスするところから始まります。
世界最高峰の職場の最先端オフィスでの日々に、主人公の期待やキラキラ感が高揚していく様子が小気味よく描かれていきます。なにしろ、会社のパーティーでBECKがライブをしに来てくれる環境という素晴らしさ!(BECKは最新アルバムも素晴らしいですよね)。
「サークル」は「全人類が全てを隠さずオープンにする“完全な”社会」を理想として掲げ、誰もがいつもつながり合い、お互いの体験をシェアし、刺激的な毎日を過ごせることを目指すソーシャルネットワーキングサービス。“隗より始めよ”ということで、「サークル」社の一員となったメイも日々のあらゆることをシェアするように社内のメンターから指導を受けます。
そんな中で、ある事件をきっかけに「サークル」の創業者イーモン・ベイリー(トム・ハンクス)の目に留まり、新SNSサービス「シーチェンジ」の実験モデルに大抜擢されます(蛇足ですが、この「シーチェンジ」は前述のBECKが2002年に発売したアルバムのタイトルです)。それは超小型カメラを身の回りにいくつも設置し、自分自身の24時間を全て公開するというもの…
そう、言ってしまえば超監視システムですね。
メイは瞬く間にフォロワー1000万人を超える世界的インフルエンサーになり、この瞬間から生活のあらゆる瞬間が「ダダ漏れ」になるというすさまじい日常にシフト。劇中では、それを見ているユーザーからのコメントがオーバーレイされるのですが、それを見ていると眩暈が起こりそうになります。普通はこれに24時間耐えることなどまず不可能でしょう!
そして、そうした日々を送る中で、究極なソーシャル化のアイコンとしてメイは社内でも認知されていき(本人もそれをまんざらでもないと思うところがこわい!)、イーモンの理想である「全人類の透明化」を実現するための新サービス「ソウルサーチ」の公開実験に臨むことになります。しかしそこで本人も予期していなかった悲劇に見舞われる…というようなストーリーラインが展開されます。
設定は架空のものですが、いまの大手ITプラットフォーム企業を思い浮かべてしまうのは自然なことです。プライバシーの懸念などさまざまな問題から現実化しないだろうとは推測できますが、それに足る技術力や資金力を備えているのもまず間違いないだろうと。
この作品は、そんな社会に生きる私たちのリアリティを描き出し、共感ポイントや重要な論点を浮き彫りにしている一方で、僕の著作の視点からいくと少々意見を異にするところもあります。
『シェアしたがる心理』という本を書いておいてなんですが、シェアという存在を批判的に捉えることも大切だと思っているのです。
では私たちは、『ザ・サークル』が提起するメッセージをどう検討するべきでしょうか?
※なお、私は本作品との間に利害関係のない中立的立場として、以下レビューさせていただきます