マーケティングの歯車までを動かす体験ブランディング

【前回コラム】「バルミューダにみる、製品スペックを超えた体験価値」はこちら

第1回と第2回では、ユーザーに感動的な体験を提供することを第一のミッションにしているブランドや、ユーザーの手に渡ってからの体験や経験をサポートしてブランド価値を高めているブランドについて考察してきました。今回はそれらと対極にいるロングセラーブランドにおける体験ブランディングの可能性についてお話ししたいと思います。

体験ブランディングは、ロングセラーブランドにこそ効く

「バルミューダやトヨタ86のようにユーザー体験の質を念頭において新製品をゼロから開発できるブランドや商品は、高スペックの似たような製品で溢れかえっている成熟社会でも勝負できるのはわかる。でも、昔からある商品では、今から体験ブランディングなんてできないんじゃないか?」。そう感じていらっしゃる人もいるのではないでしょうか。

この問いに対する私の見解は、
「体験ブランディングは、ロングセラーブランドや日本中どこにでも売っている身近なブランドにこそ効く」
です。

現場で体験ブランディングを実践してきて個人的に可能性を感じているのは、誰もが知っている国民的なブランドや商品(以下、便宜的に「ロングセラー」とまとめます)だったりします。「誰もが知っている」ことは、「共通のブランド記号がある」ということ。そこに新しい体験価値を創造できれば、みんなにワクワクを提供できますし、SNSやPRで世の中に伝播しやすい––すなわち体験ブランディングで成功する確率が高まるということです。

事実、わたしが一緒に仕事をさせていただいた「ピノ」や「リプトン」は、それぞれのカテゴリにおけるロングセラーの代名詞のような存在です。体験ブランディングを実施する以前は、その存在が当たり前であるがゆえに世の中の関心やトークバリューは低く、相対的に“動き”が見えなくなっていました。

そこで、これまでの固定観念を覆す新たなブランドの体験価値を世の中に提案をしたのが「ピノフォンデュカフェ」と「Lipton Fruits in Tea」でした。

この2つの体験ブランディングは、それぞれ以下のような成果をあげました。「ピノ」も「紅茶(リプトン)」もアップルのような先進性がある商品ではありませんし、トヨタ86やスノーピークのようにゼロから商品開発ができるものでもありません。しかし、いずれも消費者の興味を生み出し、行動を変え、商品の売上をアップさせる/新たな収益機会を生み出すといった結果をもたらした点で、体験ブランディングの可能性を示唆していると思います。


■ピノフォンデュカフェ

バニラアイスをチョコでコーティングしてできているピノのシンプルな商品性に注目。ピノを裸にしたバニラ玉をチョコソースにフォンデュする新しい体験メニューを家族や友人と一緒に楽しめる店舗を原宿(2015年〜)/梅田(2016年〜)にて展開。

【課題】若者のブランド離れが進んでいたロングセラーアイスの再興
【成果】
・自分でつくるピノ体験が10~20代の女子を中心に人気になり、その盛り上がりがSNSで拡散。連日の行列が続いた。
・若者の熱狂がメディア取材され全国的に話題が広がり、ブランドへの新たな層の盛り上がりが流通を刺激し配荷率がUPした。
・ピノフォンデュカフェを開始した2015年度は、1976年のブランド誕生以来、最高売上を記録。その後も業績は右肩上がりとなった。


■Lipton Fruits in Tea

フルーツやハーブ、シロップなどいろいろ入れて楽しめる紅茶ならではアレンジ価値を体験できるメニュー「in Tea」を開発。オリジナルのタンブラーでテイクアウトできる夏の新紅茶体験「Lipton Fruits in Tea」を表参道(2016年〜)/梅田(2017年〜)にて実施。

【課題】変化のない日本の紅茶市場に新たな価値をつくりだし、紅茶の消費量を増やす。

【成果】
Fruits in Teaを専用紅茶タンブラーに入れて外に持出すシンボリックな新飲用スタイルがSNSやメディアで拡散。日本の静的な“お紅茶”文化を動かすトレンドが生まれた。
・表参道/梅田の店舗は、20代の女性を中心に開店前から閉店まで行列が絶えず、連日数時間待ちの大人気スポットとなった。
ECサイトでタンブラーキットも販売。2年間で店舗とECを通じて全国、多くの家庭に紅茶タンブラーがインストールされた

次ページ 「ロングセラーの課題は未来の売上をつくること」へ続く

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藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)
藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

藤井一成(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター)

1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを手掛け、その後グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。

“これでいい…”という消極的選択が溢れる成熟社会で、「ブランド」と「生活者」の関係性をアップデートする“至福”の体験価値をクリエイティブし、ブランデイングとマーケティングの両輪を動かしている。

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