「パナソニック宣伝100年の軌跡」(9)心を揺さぶる「音」を届ける──オーディオの広告篇

100年にわたって受け継がれる創業者の“広告観”

—Winkを起用したCMをはじめ、宇和川さんが携わられたオーディオ関連のCMは実にさまざまですね。

宇和川:パナソニックが創立70周年記念でPR映画を制作した際に、松下幸之助さんからお話をうかがう機会がありました。そこで「広告は面白くてためになるもんでないとアカン」と教えられました。パナソニックの広告には、思わず笑ってしまうものもあれば、ホロリとさせられるものもある。これは、現在に至るまで変わらず受け継がれていると思います。

相田:これまでのCMを思い返すと、ドキュメンタリー番組かと思うような見応えがあるCMも少なくないですよね。

03. 1982年 テレビCM「原音の心」篇

宇和川:商品を売るための即効性のある広告と、ブランディングのための広告を使い分けることが、パナソニックは昔から本当にうまかったですね。テクニクスでは、20世紀最大のチェリストのパブロ・カザルスのドキュメンタリー映像を題材にした90秒CMもありました。94歳のカザルスが国連本部で平和を願う伝説のスピーチをし、演奏した映像を見たとき、心打たれ、ぜひオーディオのCMで使いたいと思いました。CM制作時、カザルスは故人でしたので、夫人の了解を得る必要があったのですが、なかなか理解が得られず、説得しにワシントンまで行きました。

そして原音を忠実に再生する、というブランドの姿勢を伝えるために映像を使いたい、何より国連でのあのシーンを日本中の人に見てほしいんです、と繰り返し話しました。90秒のCMは、それほど多くの人が目にするものではありませんが、このCMを見た人は、長く忘れないでいてくれるんじゃないかと……。この作品はその年のACCでグランプリをいただきました。パナソニックの代表的なブランド広告のひとつだと思います。

相田:CMの中には、ユニークであっても、何を伝えたいのか、いまひとつわからないものもありますよね。その点パナソニックのCMは、印象に残るものであっても、最後にはちゃんと商品やブランドに落ちますよね。

宇和川:そうですね。パナソニックの方たちは、そのコツをよくご存じでした。ですから、新しいCMへの挑戦も前向きに検討してもらえましたし、懐の深さがある宣伝部門の方とは、お互いに言いたいことを言い合って、CM制作に取り組んでいました。毎日がプレゼンテーションだったとも言えます。

—オーディオ商品や、パナソニックの広告のこれからについて、どのような考えをお持ちでしょうか?

相田:今振り返っても、私の青春時代は音楽とともにあったと思います。今でも音楽は本当に身近なものですし、これからも、心に響く音を、商品やCMを通じて届けてほしいですね。

04. 2016年 新聞 Technics SL-1200GAE

宇和川:今は音楽配信サービスをつかってパソコンやスマートフォンで音を楽しむ人が多数いますが、あえてレコードを選んで、オーディオ機器で楽しみたいという人も、一定数います。実は私もその一人です。

相田:私もレコード世代で、愛着があります。

宇和川:ターンテーブルを復活させたという広告を見たときも、嬉しくなりました。歴史がありながらも、新しさを感じる。そのあたりを、ぜひ深めてほしいですね。

原音を忠実に、原点に忠実に

1988年 新聞 Technics SST-1

パナソニックのオーディオ製品は、品評会で1等当選の高評価を得たラジオ1号機「当選号」から、変わらず高音質を目指し続けています。テクニクス製品は、ハイファイ(High Fidelity=高忠実度)の名が示す通り、原音を忠実に再生する音づくりで、多くのファンを魅了しています。

現在の社名である「パナソニック」は、1955年に輸出用スピーカーにつけた名前が出発点。1988年からは国内でラジカセやコンポ、ポータブルオーディオ製品など、若者の生活にフィットしたオーディオ機器を届けています。

なお、このブランド名は、Pan(汎、あまねく)とSonic(音)という言葉を組み合わせ「当社が創りだす音をあまねく世界中へ」という思いで名付けられました。あらゆる人々に優れた製品を届けたい。この気持ちは、パナソニック製品すべてに通じるものづくりの原点でもあるのです。

オーディオ宣伝年表

編集協力:パナソニック株式会社

「パナソニック宣伝100年の軌跡」(10)多様な切り口で商品を引き立てる — 情報通信の広告篇に続く


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