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ビジネスデザインの根幹は「シフト」すること
——今回のデザイントークは、電通の企業理念である「Good Innovation」に、我われが本当に取り組めているのか、イノベーションの第一人者として知られる濱口さんに話を聞いていきたいと思います。
濱口さんと電通は3年前から一緒に仕事に取り組み、昨年は顧問にも就任してもらいました。電通の強みや弱みを理解している濱口さんと話ができることは、とても意義深いと思っています。
濱口:自分が何者なのか説明するのは難しいですが、最近は「ビジネスデザイナー」と名乗っています。ロットマン・スクール・オブ・マネジメントの元学長であるロジャー・マーティン氏が著書『ビジネスデザイン』を出版したときに、「ビジネスをデザインする人のことを書いた。まさに君のことだ」と本を贈ってくれたためです。
「デザイン」と付いていますが、何か絵を描くわけではありません。僕の仕事の根幹は「シフト」、つまり「ずらす」ことにあると考えています。
仕事はまず、複雑性が高い事象を理解することが求められます。そのときに企業の方向性をシフトさせて、新しい方向を見つけていく。これが、僕のひとつ目の仕事です。
もうひとつ目は、コンセプトやアイデアを「リチューン」することです。いくら面白く新しいアイデアも実現できなければ意味がありません。クライアントの技術力や経済力を踏まえて、実現可能なサイズに調整していくことも仕事です。
これまでUSBフラッシュメモリーや、日本初となるイントラネット開発、マイナスイオンドライヤー、P&Gのヘアケアブランド「ハーバルエッセンス」のコンセプト設計など、プロダクトからサービスまで、そしてBtoBからBtoCまで、ありとあらゆる分野を扱ってきました。
ビジネスデザインは、最終的にどれだけクライアントを儲けさせることができたかがゴールです。その一方で、失敗も経験してきました。しかし、徐々に失敗する確率は減ってきています。それは自分が“手法マシーン”で、これまで手掛けた700件ほどのプロジェクトの経験をプロセス化することで完全武装してきたためです。
——たしかに濱口さんと一緒に仕事をするなかで“手法マシーン”という面も見てきました。しかし現場での即興力も、すごいと感じています。緻密に考えを積み重ねていくけれども、決してテンプレートに固執せず、何の躊躇もなく一瞬でそれを壊すこともできる。さらに、緻密に積み重ねていきながら、最終的には簡素化した伝達にもこだわっている。つまり、詳細化と簡素化という本来、真逆の能力が両立しているわけです。
濱口さんと一緒に働いていると、たくさんの学びがあります。これまでの経験から、企業の課題解決の方法を構造化したモジュールをお持ちだと思いますが、ご自身の能力もモジュール的に考えているのでしょうか。