濱口秀司が語る、イノベーションを生み出す「ビジネスデザイン」とは? 【前編】

アイデアとロジックの両立の変遷

濱口:当然、考えています。例えば、簡素化と詳細化を行うタイミング、分析に偏らずに直感の使いどころなど、常にバランスが取れるようにコントロールを利かせています。

——ビジネスデザイナーは、その両立が求められるのでしょうね。

濱口:そう思います。特に経営者とのコミュニケーションでは、ロジックとアイデアの両方が求められます。経営者は機会損失を嫌うため、どんなに素晴らしいアイデアも、それが本当に最善策なのか深く考えます。

例えば、マッキンゼーのような論理性が高い組織は、事業分析に抜けがないため、経営者からすると安心できます。しかしアイデアがないため「それで、何をしたらいいの?」と具体性に欠けてしまう。ですから、面白いアイデアと、それを説明するロジックの両方がないといけないのです。

——ビジネスデザインの領域には、一見対立する能力をカバーできる“ふり幅”が必要になるということですね。

濱口:そうです。アイデアとロジックという2つの素養を、個人で持つ必要があります。1990年代、マッキンゼーが大量にデザイナーを雇ったことがありました。クリエイティブを重視し始めたわけです。しかし21世紀に入る前に、そのデザイナーを大量放出した。なぜなら、使いこなせなかったためです。僕はこれを「ファーストアテンプト(1回目の挑戦)」と呼んでいます。

「セカンドアテンプト」は、2000年代初頭に起きました。世界的に有名なシナリオプランニング会社「GBN(グローバル・ビジネスネットワーク)」や、元デザイン会社でイノベーション分析が有名な企業「ダブリン」などを、書籍『競争優位の戦略』の著者マイケル・ポーター氏らがつくったモニターグループが買収したのです。「ファーストアテンプト」の反省から、個人ではなく組織ごと能力を吸収する発想です。しかし、これも失敗しました。どうデザインを組織に組み込むのか、プランニングできていかなったためです。

その後に、「サードアテンプト」が起こりました。舞台は「ビジネスデザイン」という言葉の生みの親であるロジャー・マーティン氏の「ロッドマンスクール」でした。論理的組織にクリエイティブな人や組織の統合に失敗したのであれば、一人の頭の中に理論とクリエイティブを住まわせるのが、一番良いと導き出しました。そしてビジネススクールでありながら、デザインコースを必修科目にしました。結果は大成功で、多くの卒業生が活躍しています。これがデザインビジネス業界の変遷です。

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