ヤフーは2017年12月12日、約540人の有識者や専門家が書き手となって発信する「Yahoo!ニュース 個人」のイベント「オーサーカンファレンス2017」を東京都内で開催した。
2012年9月からスタートした「Yahoo!ニュース 個人」は、有識者や専門家が“書き手(オーサー)”となって「Yahoo!ニュース」上で情報発信を行うもの。2014年12月からは、オーサーの記事を通じて「発見と言論が社会の課題を解決する」という世界を目指し、執筆活動を支援するさまざまな取り組みを実施してきた。
今回のオーサーカンファレンスでは、サービス開始から5年を経た「Yahoo!ニュース 個人」のこれまでの振り返りや2017年の実績報告、そして新たなオーサー支援施策の発表が行われた。
冒頭で登壇したヤフー メディアカンパニーメディアチーフエディターの岡田聡氏は「Yahoo!ニュース 個人」の5年を振り返り、「社会の課題を解決するために、『オーサーが執筆し、ヤフーが届け、メディアがつなぐ』という循環をつくることができている。ヤフーが届けるだけでは広がりに限界があるが、オーサーの発信を他社メディアがバトンのようにつないでくれていることも大きい」と語り、2018年には発信する個人のさらなる支援強化・領域拡大として、映像クリエイターの発信サポートを開始していくことも発表した。
「Yahoo!ニュース 個人」の責任者を務める中村塁氏からは、2017年の実績と2018年の新施策を発表。オーサー数は昨年比と横ばいの約540人、記事本数は1100本と前年比4%アップ、PVは年間12億を達成したことを報告した。またオーサーへの記事執筆の支払いは1億8500万円と、記事に対する支払総額が初年度から約12倍になったという。
2018年には、これまで月1万5000PV以上の記事を3本入稿すれば3万円を支援するとしていたが、追加のインセンティブとして1万5000PV以上の記事を1本入稿すれば5000円を支援するなど、オーサーの活動を安定的に支援する施策などが発表された。
そして「オーサーアワード2017」授賞式に移り、「Yahoo!ニュース 個人」が目指す「発見と言論が社会の課題を解決する」ことを最も体現したオーサーには、ジャーナリストの江川紹子氏が選出された。
「オーサーアワード」は、オーサーによる投票などをもとに、「Yahoo!ニュース 個人」の担当者が審査を行い、毎年12月にオーサーの中から1人を表彰。江川氏には賞金100万円が贈られた。2015年から設けられた同賞は、初年度は組体操の危険性を発信して社会課題化させた教育学者の内田良氏が、2016年は子どもの貧困についての情報発信を行ってきた社会活動家の湯浅誠氏が受賞した。
江川氏は、司法や政治、災害、教育、カルト、音楽、スポーツなど幅広い記事を手がけ、2017年には「Yahoo!ニュース 個人」上で25本の記事を執筆(12月12日時点)。摂食障害を患う女子受刑者が増加している問題や、地下鉄サリン事件の実行犯らがどのように事件に関わっていったかを今の問題に絡めて執筆した記事、行くあてがなく「刑務所に帰りたい」と放火した「下関放火事件」(2006年)で逮捕され服役を終えた男性へのインタビューなど、深い問題意識や圧倒的な取材力を活かした記事が評価された。
受賞後には江川氏による15分ほどのスピーチがあり、以下のように語った。
「過去の受賞者である内田さんや湯浅さんのように、私には専門性があるわけではなく、年によって書いているテーマも違う。あれやこれやと、その時々の興味関心で書いてきた。そういう意味では、『伝えたい』というよりも『自分が知りたい』という好奇心が原動力になっているのかもしれない。昨年から今年にかけては行刑について書いてきた。刑務所は社会問題を凝縮したような場所。一つの事件の到達点でもあるが、一方で事件を起こした当事者の多くにとってはその後の人生の一つの通過であり、社会にまた出てくるための出発点でもある。
ただ刑務所という場は外のつながりが希薄で、行刑と福祉、そして医療がどう連携していけばいいのかは社会として大きな課題。今後も現場の実態を発信していきたいと思っているが、1本の記事を書いたからといって世の中が動くわけではない。それでも、こんなことが起こっているという発信をすることは、現状を知り、人が考え、行動する出発点になるのではないか。そうして、ほんの少しでも人の人生を、社会をより良くすることができればと考えている」
また同時に発表された「オーサーコメントアワード2017」は、映画ジャーナリストの斉藤博昭氏が受賞。「オーサーコメント」とは、記事に対してオーサーが専門性を活かし、多角的な視点や事案の背景を解説するもの。斉藤氏は映画ジャーナリストとしての豊富な取材経験をもとに、コメントを多数投稿した。
その後に行われた「課題解決につながる発信と、その手法について考える」をテーマにしたパネルディスカッションでは、俳優・ラジオパーソナリティの別所哲也氏がモデレーターを務め、ヤフーの岡田氏、映画監督・ジャーナリストの中村真夕氏、慶応義塾大学循環器内科医師の福田芽森氏、個人投資家・作家の山本一郎氏、そして江川氏が登壇。それぞれの主なコメントの抜粋は以下の通り。
山本一郎氏:発信には色々なスタンスがあるが、「Yahoo!ニュース 個人」は5年を経て、オーサーの方々が自分はどういう発信するべきかということに磨きがかかっていると思う。私は社会は公平公正であるべきだと思い、物事を真っ二つにするスタンス。ただそれをヤフーさんが見守ってくれているのは大きいと感じる。
福田芽森氏:私が書く記事は医療情報であるため、事実と解釈を分けて伝えることや常に出典元を明記することは意識している。医療は正解が一つではないので、議論があって当然というカルチャーがある。答えよりも答えに至る道筋が大事であるケースも多く、その人の発信の根源は何かを考えると良いディスカッションになるのではないか。
江川紹子氏:ここ数年、『わかりやすさ』が最優先になっていることを問題だと思っていたが、最近は社会全体として『文句を言われないこと』のプライオリティが高くなってしまっていると感じる。気に入らない言論に対して徹底的にバッシングしたい人がいて、ある物事が非常に理不尽な叩かれ方をしているときに、メディア同士でもっと助け合う姿勢も必要。そのために、自分に何ができるかを考えたい。
中村真夕氏:江川さんが言うように、ネットが社会の生き苦しさの噴火口にもなっている。ただ我々発信者としては、発信する以上、叩かれる覚悟は必要だと思っている。それに屈してしまうと、大手メディアのような当たり障りのない情報と大差なくなってしまう。自主規制をせずに、タブーとされている政治や宗教の問題にも取り組んでいきたい。
岡田聡氏:「どう届けるか」を編集するというのは、これまでヤフーが取り組んできたこと。それには大きくは2つあり、一つはデータをもとに読み手の興味関心に沿った情報を届けること。そしてもう一つは、人間の手で皆さんに見てもらいたい情報をピックアップすること。我々はとくに後者を重視していて、それによって世の中に対して“創造的な誤配”をしていければと思う。