指数関数的な成長を実現する企業の条件とは
斎藤:シンギュラリティーによって、科学技術の進化は「エクスポネンシャル」(指数関数的)なカーブになります。最初は、何も起きていないかのような「潜行の時代」がしばらく続き、そしてある時、「ディストラクション」(破壊)が起こり、それまでの技術は無力化し、ビジネスの収益性も失われます。最終的には、従来のモノは存在すらしなくなり、その一方で新しい技術も大衆化していきます。
例えば、デジタルカメラはある瞬間、爆発的に普及して、フィルム業界はことごとく破壊されてしまいました。デジタルカメラが大衆化すると、今度はカメラ機能を持ったスマートフォンが爆発的に普及して、デジタルカメラを破壊しようとしています。
ドローンやVR、ARも、今は玩具のように扱われていますが、ディストラクションポイントを超えると爆発的に普及して、さまざまな分野で既存技術の破壊を引き起こすでしょう。
産業革命が起こるスピードは加速しています。第1次の機械化から、第2次までは200年かかりましたが、第3次までは100年、そして第4次がわずか30~40年で起ころうとしています。これ以降は、どんどんスピードアップしていくと考えられています。
ビジネスの世界も同様に、新陳代謝が活発になり、企業の成長スピードも速くなっていきます。アメリカではFacebookやGoogleなど、21世紀に創業した企業が猛スピードで成長しています。しかし日本企業は、多くの企業が20世紀型の考え方です。
今後は先を見越して、彼らよりも早いスピードで動く必要があります。技術を集積するうえで非常に重要になるのが「Xプライズ財団」の考え方です。Xプライズ財団はインドのアサリ家が立ち上げて、さまざまな分野のコンペティションを開催することで、技術を結集させて、民間初の大気圏外の弾道宇宙飛行を成功させています。
日塔さんが冒頭で紹介したように、ANAがXプライズ財団とアバターに関するコンペティションを開催しています。ロボットを遠隔操作して手術を行うコンテストでは、世界中からたくさんの技術が集まりました。アバターの技術が完成したあかつきには、ANAの旅客機ビジネスは破壊されるかもしれません。しかし、まさにその未来を見越してXプライズ財団と提携したわけです。ANAがいつまでも航空会社でなければならない理由は、どこにもありません。バーチャルリアリティーの会社であっても、問題はないわけです。エクスポネンシャルな成長に乗るには、このような発想の転換が必要です。
しかし企業は、なかなか変われないものです。強力なブランドイメージを持つ企業であればあるほど、それを守る強い免疫システムが存在しています。ですから、企業の生存率を高めるイノベーションの種をつくったら、それは免疫システムから一番遠いところにまかなければ育ちません。
今後、求められるのは、一つの本業だけに注力するのではなく、さまざまな試行錯誤を繰り返す中でポイントをつかみ、そこから次のビジネスへと変わり続けてくようなビジネスモデルです。
日塔:では、ジョバンさんからはシンギュラリティー大学でどのようなことが行われているのか、お話をいただきます。
ジョバン:私からは、シリコンバレーのシンギュラリティー大学での体験を共有したいと思います。私は日本で博士号を取得し、現在はシンギュラリティー大学で教壇に立ち、生徒のメンターを務めています。大学はNASAの施設内にあり、グーグル、シスコ、ノキアなどの大企業と連携し、グローバルなコミュニティーを形成しています。
われわれの目的は、10年以内に10億人にポジティブなインパクトを与えることです。そのために、大学ではエクスポネンシャルに進化するテクノロジーを教えています。これにより、世界中に豊かさを生み出すことができると考えます。人類の歴史で電話やペニシリンなどの発明から、どれだけ恩恵を享受できたかを想像してみてください。現在、私のiPhoneはNASAのアポロ計画の計算機よりも能力が高いです。技術はあまりに早く、そして深く進化していくのです。
例えば、集積回路やGPS、デジタルカメラなど、さまざまなものが指数関数的に進化しています。シンギュラリティー大学の共同創設者のレイ・カーツワイルは、これを「収穫加速の法則」と呼んでいます。
例として、「30歩」という話を挙げましょう。1歩を1メートルとして、直線的に考えると1メートルの歩幅は変わらず、30歩目に30メートルの距離になります。しかしエクスポネンシャルに考えると1歩目は1メートル、2歩目は2メートル、3歩目は4メートルの倍々に伸びていき、30歩目に地球を26周する距離になります。
エクスポネンシャル技術は、創造的破壊をもたらします。考え方を変えなければ、企業は存続できなくなるのです。つまり、企業は「ムーンショット」(月に行くような難しい挑戦)のような力を持つべきです。「10%」ではなく「10倍」の改善を目的に掲げれば、エクスポネンシャル技術が必要になります。
シンギュラリティー大学の使命は、人類の課題に対処するためにパワーリーダーにエクスポネンシャル技術を教育してインスパイアすることです。既に世界中に卒業生がいます。日本にも支部があり、私がリーダーをしています。
シンギュラリティー大学のメインプログラム「GSP」(Global Solution Program)は大きく二つのセクションに分かれています。前半はアカデミックな講義で、後半は会社を設立します。2017年は90人の生徒として実業家、大学教授、科学者などが44カ国から集まり、日本からも初めて2人が参加しました。さまざまなイベントが9週間にわたって行われ、生徒は積極的な参加が求められます。エクスポネンシャル技術はさまざまなものがありますが、特に「AI/ロボティクス」「バイオテクノロジー」「情報システム」「ナノテクノロジー」の4つのカテゴリーを重視しています。
われわれのプログラムから、すでにさまざまな新しい企業が誕生しています。例えば、Made In Spaceは国際宇宙ステーション(ISS)に世界初の宇宙用3Dプリンターを供給しています。また、Be My Eyesは、盲目の人のための目になれるソフトウエアを開発しています。
私は2013年のGSPの参加者6人に、プログラム開始時と中間と終了時でインタビューし、どのようにマインドセットが変化するのかを追いかけました。そして、これまで5回のGSPで50ものスタートアップ企業に助言してきたため、その内容を本にまとめようと考えています。
昨年は初めて日本で「GIC」(Global Impact Challenge)というコンテストを行い、その優勝者と次点の2人がGSPに参加しました。詳しくは、シンギュラリティー大学の東京チャプターでさまざまなイベントを紹介していますので、皆さまもぜひご参加ください。「Let’s be Exponential」(エクスポネンシャルでいきましょう)。
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