単純に紙を削って、Webに投資する選択肢は現時点ではない
—なぜWebではなく、紙メディアの革新に目を向けたのですか。
理由としては紙とWebを対立構造で捉える風潮に疑問を抱いていたことがあります。通販会社において紙とWebを対立構造で捉えるべきではありません。しいて対立するものを言えばWebが代替するのは電話、ファックス、ハガキといった従来の販売チャネルです。紙のカタログやDMは、メルマガやアプリのプッシュ通知のように、お客さまの欲しいという気持ちを喚起するメディアであり、販売チャネルではない。Webで紙の顧客価値を代替することはできないのです。
加えてディノス・セシールの事業の規模や商品点数だと、大手プラットフォーマーが競合になっていきます。すでに大手プラットフォーマーの競争軸はWebのUI、UXという次元からロジスティクスなど、別のステージに行ってしまっている。そういった点も含めた価値提供をWebだけで行うとしたら、尖った価値をつくるのは難しいとも考えました。そこで、紙に戻るのがベターであるという考えを持つようになりました。
また入社してから通販会社のデータマイニングの精度の高さに驚いたことも、こういう考えを持つようになったきっかけのひとつです。これまで、デジタル領域の方がデータ分析の知見は進んでいると考えていました。しかし当然ですがメールのように、ほぼコストゼロで配信できるツールと異なり、紙のメディアはコストもかかるので徹底的にA/Bテストを繰り返して精度を高める努力を続けている。そして、このノウハウを持つ会社は国内でも数えるほどしかありません。そういった点も考えると、現時点で単純に紙を減らした分をデジタルに投資して補うという選択肢はなくなりました。