【前回記事】「「パナソニック宣伝100年の軌跡」(9)心を揺さぶる「音」を届ける──オーディオの広告篇」はこちら
2018年に創業100周年を迎える、パナソニック流の宣伝に迫る対談。第10回は「情報通信の広告篇」です。長年にわたって機能を進化させてきた電話機やカーナビといった通信機器。
とりわけ携帯電話は、1990年代から2000年代にかけ、次々と新商品が登場したのに伴い、多様な切り口の広告表現が生まれました。1996~97年にパナソニックの広告に出演された女優・雛形あきこさんと、広告制作に携わった博報堂のクリエイティブディレクター・大谷優二さんが語り合います。
商品の進化と共に多様な広告表現が花開く
—雛形さんが広告に出演されていたのが、1990年代後半。携帯電話がこれから普及するというタイミングでした。
雛形:出演したデジタルコードレス電話の広告では、PHSが家で子機になる、というのがポイントでした。今では家の電話を使うことがすっかり少なくなって、電話が鳴るとびっくりするぐらいですが、当時はまだ、携帯電話を持つのも珍しくて。
大谷:武田真治さんとご共演された、携帯電話の広告は、バイブレーション機能が「売り」になっていますね。コミカルで面白い。
雛形:電話が振動すること自体が新しかったんです。
大谷:「振動」だけで工夫して広告を一本つくってしまうのは、パナソニックならでは。商品の特徴を掘り下げて、「あるある」と共感できる広告に仕立て上がっています。
雛形:振り返ってみると、商品の進化は目まぐるしいですね。ショートメールが打てるようになった、重さが100グラムを切るようになった、連続通話時間が延びたと、すごい速さで機能が向上していって、新商品が出るたび広告がつくられたわけですものね。たくさん撮影した記憶があります。このスピード感は携帯電話ならではだと思います。例えばシャンプーの広告は、一年に何度もリニューアルされる商品ではありませんからこうはいきません。
大谷:急激に普及して、今までになかった「一人に一台」の家電製品になりましたからね。私が広告を担当したのは、雛形さんがご出演の少し後ですが、携帯電話だけでも年に3 ~ 4本はCMを撮影していたように思います。毎日が企画会議で、毎日がプレゼンでした。
雛形:CMを撮影する度、今度はこんな新しい機能が出てきたのかと驚いていました。
—大谷さんがクリエイティブディレクターとして最初にパナソニックのCMを担当されたのが2002年。競合がひしめく中で、どのように広告制作をされていたのでしょうか。
大谷:広告の基本は、一ビジュアルに一コピーだと思っていますが、その頃の携帯電話は、各社がいろんな機能を競い合っていて、それを余すところなく伝える広告がトレンドでした。そうした中で挑戦したのが、「世界最薄」という特徴に絞った広告です。
雛形:赤土の大地の上で、女性がピタッと前屈して商品の薄さを表現していて、ちょっとドキッとするCMです。インパクトがありますね。
大谷:世界で“一番”の機能を持つ商品ですから撮影場所もこだわって、360度大地が見渡せる、オーストラリアを選びました。ただロケ地は決まったものの、出演する女性が決まっていなくて。現地でのオーディションに、広告のイメージにぴったりな16歳のバレリーナが現れた時は、宣伝部門の方と小躍りして喜びました。
雛形:薄さを際立たせるためには、起用する人が重要ですものね。
大谷:当時パナソニックの携帯電話は男性のビジネスユースでの支持が高かったので、女性に訴えるものにしようというねらいもありました。この広告では訴求内容を絞ったので、別のCMでは商品のスペックを満遍なく伝えるものもつくりました。そうやって手を変え、品を変え、市場のニーズに合わせて制作していましたね。