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(本記事は、『地域を変える、アイデアとクリエイティブ! 読本』記事を転載したものです)
ケンカからはじまった! ? 高岡の仕事
数年前に富山県高岡市の職人の集まり「伝統産業青年会」と高岡を盛り上げるための短篇映画『すず』をつくりましたが、彼らとの最初の出会いはひどいものでした。丸の内のハーマンミラーストアで「職人気質の未来」をテーマにしたトークイベントがあって、高岡の鋳物職人や漆器職人の登壇者に混じって、なぜか映像作家の僕も呼ばれたんです。
その対談で職人さんが「漆のiPhoneケースを作っていて1万円で売っている」と紹介していたので、僕は「そんなダサいケースを誰が買うんですか?どこで売ってるんですか?」と正直な気持ちを口にしました。でも、職人さんは「自分たちは作り手だから」と、質問に答えられなくて。僕はそれではダメだと思ったんです。映像業界では同じ作り手のディレクターがニーズや公開場所、予算なども必ず考えます。「マーケティング的なことはプロデューサーの仕事でしょ」と言ったら、絶対に次から声はかかりません。
さすがにその場ではそこまで言わずに終了しましたが、後で聞いたら彼らの僕に対する印象はひどかったらしい(笑)。そんなことは全く知らずに過ごしていたら、伝統産業青年会の会長が「東京に行くので飲みませんか?」と声をかけてくれたんです。
彼らは5、6人いて、説教してやろうと思っていたそうですが、僕はそこでもマーケティング視点の必要性や他の業界よりも遅れていることなど、思っていたことを全部伝えました。
その中で「そうはいっても、菱川さんは現場を見てませんよね。一度高岡に来てください」と話が出たので、その週末にすぐに行き、職人さんの工房を回りました。回りながらこれはすごい!と感嘆して打ち解けて、夜には市長も参加しての大宴会になったところで、「はじめは腹が立ったが、よく聞けば菱川さんの言っていることは筋が通っている。みんなで予算を集めるからPR 映像をつくってほしい」とお願いされたんです。それならばただ美しいだけの紹介映像ではなく、短篇映画を作りたいと話をしました。