デジタル一辺倒ではない、これからのマーケティングのあるべき姿とは。
Eメールなどのデジタルチャネルと、DMを組み合わせた施策の効果を検証する「フルチャネルコミュニケーションプロジェクト」を推進する、日本郵便 郵便・物流営業部 担当部長 鈴木睦夫氏に聞きました。
印刷の領域にもデジタル化の波が押し寄せる中、私たち日本郵便は、「ダイレクトメール(DM)」の役割が変化していくのではないかと考えています。
従来のDMは、同じ内容のものを大量に印刷し、大勢のお客さまに向けて一斉に送付するのが一般的で、「コストがかさむ」「費用対効果を高めづらい」といった印象を持つマーケターも多かったと思います。しかし現在は、デジタル印刷技術の進化を背景に、データに基づいて「必要な人に、必要な内容をパーソナライズして印刷し、スピーディーに届ける」ことができるようになりました。
コストや労力を抑えながら、お客さま一人ひとりに最適なメッセージを届けるという、デジタル施策ではごく当たり前に行われていることを、DMというアナログの手段においても実現できるようになったのです。
デジタルマーケティングの本質とは、データドリブンであること。コミュニケーションの打ち手をデジタルに閉じて考える必要はありません。私たちが行ってきた「フルチャネルコミュニケーションプロジェクト」では、マーケティングオートメーションと連携させ、パーソナライズしたDMを送付する取り組みを行っています。データドリブンなマーケティングと、進化したDMが融合することで、新しい世界が広がりつつあるのです。
これからの時代のマーケターは、「誰に・何を・どうやって伝え、どう気持ちを動かし、どんな行動を喚起したいのか」という、マーケティングの本質的な部分を徹底的に突き詰めて考えることが、ますます重要になるでしょう。そして、「どうやって」のところを、デジタル/アナログを問わずチャネルニュートラルに組み合わせて考える必要があります。
問題なのは、技術が進化するスピードに、マーケター側の「それをどう活用するか」という定義が追いつけていないことです。適切な活用法を定義できていないのに、技術やツールが先行してしまうと、例えば、うんざりするほど大量に送られてくるメールマガジンや、どこまでも追いかけてくるターゲティング広告など、企業からのメッセージが顧客から疎まれるという結果を招いてしまいます。
データに基づき、デジタル×アナログを最適なバランスで活用して、顧客との関係を強化していくためには、「顧客視点のシナリオ」を描くことが不可欠です。
顧客を中心に置き、「一人ひとりに合った価値を、どう届けるか」というシナリオを描く――これが、私たちが掲げる「オムニメディア構想」です。
中心に広がり続けていることは事実ですが、顧客の生活行動は、当然デジタル空間に閉じたものではなく、デジタルとアナログの間を行ったり来たりしながら行われています。顧客を中心に置いて、データを核にすべてのチャネルをつなぎ、タイミングによって適切なものを使い分ける「オムニメディア」の環境を構築することが、企業にとって急務と言えます。
DMによるコミュニケーションが、実はデジタルネイティブと呼ばれる若年層に対して特に有効であるという調査データもあります(USPS Mail Moments:2016 Review)。マーケターは、「デジタルかアナログか」という二項対立で捉えることで、その事実を見失い、顧客とつながる機会を損なってはならないと思います。
日本郵便 郵便・物流営業部 担当部長
鈴木睦夫氏
P&Gでキャリアをスタートし、NTT、IMJ、コカ・コーラと一貫してマーケティングおよびデジタルマーケティング領域を歩んできたが、デジタルコミュニケーションの限界を感じて日本郵便に転じる。デジタルとアナログの組み合わせの最適解を探り、広く広告業界に発信する役割を担う。
編集協力:日本郵便