ピンチはヒーローを救う!?生存をかけた、 仮面ライダーの 「変身」マーケティング

オトナグリコと平成ライダー

初代仮面ライダーが始まった1971年から比べると、子どもの数はずいぶん少なくなりました。

少子化の影響を真っ先に受けるのが、子どもをターゲットにしている商品です。例えばお菓子は、オトナの嗜好に合うような商品を開発するなど、子ども以外の顧客をつくり出すことに成功しています。

2000年に再開することになった「仮面ライダークウガ」も、新しい顧客を創造する必要に迫られました。

ちょうど昭和の仮面ライダーを見て育った子どもたちが、この頃には親になる年齢になっていることから、大人が見ても楽しめるヒーローへと方針を転換します。それは、従来の子ども向けのヒーロー像を全否定することでした。

「悪の組織」や「改造人間」というリアリティのない設定を排除し、「戦いを好まないライダー」という人間ドラマを重視した重めのストーリー展開で、オトナの鑑賞に耐えうるコンテンツに変化していきました。

主人公にはアクションスターではなく、俳優のオダギリジョーさんらが起用されています。人間ドラマを描くために必要なキャスティングだったのではないかと思いますが、期せずしてイケメン目当てのお母さんたちまで巻き込んでターゲット層の拡大に成功。平成ライダーとして現在まで続く人気シリーズが誕生しました。

二世代戦略の終焉

親子2世代を取り込むことで人気を博した平成ライダーですが、平成も後半になると、またもや低迷し始めます。「失われた10年」の頃に子どもだった世代が、親になる時代がやってきたのです。
そもそも仮面ライダーに思い入れのない世代ですから、2世代戦略そのものに限界があります。そこで、一人の子どもからできるだけ多くの客単価をあげるという戦略に移行していくことになります。

仮面ライダーと言えば今も昔も「変身ベルト」ですが、最近すごいのはベルト本体よりも、付属する「連動型アプリケーション」にあるのです。

ベルト本体に対して数十種類のアプリケーションが用意され、組み合わせによってアクションが連動するので、とにかく全部集めたくなるのです。ガチャでしか手に入らないレアなものや、ゲームセンターで強化アイテムとして使うなど、アプリケーションをハブにさまざまな商品に水平展開されているのです。

ひとつ500円程度なのでつい気軽に買ってしまいますが、気がつくと数万円の出費になってしまうことも。この連動型アイテムが本格的に取り入れられた頃から、アイテムの売上は飛躍的に伸びたとか。

番組内容もポップで明るく、連動型アイテムを多数展開するための工夫がなされるようになりました。

変化に対応した者だけが生き残る

ルイヴィトンとSupremeのコラボが最近話題になりましたが、老舗の企業やブランドほど、常に大胆な変化をし続けていると言われます。仮面ライダーも時代の流れや市場の変化に翻弄されながら、その都度大胆な「変身」によって幾多のピンチを乗り越えてきました。

人間と異生物の間をさまようヒーロー。

自分自身を否定し、葛藤を乗り越えながら「変身」し続けることこそが、このヒーローのアイデンティティでありDNAなのかもしれません。

先日、男の子のなりたい職業の1位がスポーツ選手を抜いて学者、博士になったというニュースがありました。

その一因に仮面ライダーの影響があるのではないかと取り沙汰されましたが(最近の主人公の職業は医者や物理学者なのです)、長い時を経て今もなお子どもたちに大きな影響を与え続けるブランド力は、こうした、変化を恐れない創造的破壊の精神に支えられているのです。

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石井 原(ネアンデルタール クリエイティブディレクター、アートディレクター)
石井 原(ネアンデルタール クリエイティブディレクター、アートディレクター)

1969年生まれ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。博報堂を経て、2005年風とバラッドに参加、2011年ネアンデルタール設立。東京ADC賞、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、日経広告賞グランプリ、東日本ポスターグランプリ、第50回ACC賞マーケティング・エフェクティブネス部門グランプリ ほか。

石井 原(ネアンデルタール クリエイティブディレクター、アートディレクター)

1969年生まれ。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。博報堂を経て、2005年風とバラッドに参加、2011年ネアンデルタール設立。東京ADC賞、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞、日経広告賞グランプリ、東日本ポスターグランプリ、第50回ACC賞マーケティング・エフェクティブネス部門グランプリ ほか。

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