製品やブランドの価値を決めるのは生活者である
「これがいい」になるための答え—それは「消費者の目線に立つこと」だと思います。
ですが、頭でわかっていても「いいものを作れば売れる」時代を生き抜いてきたモノづくりに誠実なメーカーであるほど、生活者目線に頭を切り替えるのが苦手なような気がします。
いまモノが選ばれる構造は、次のようになっています。
- (1)メディアやテクノロジーが拡張し、洪水のように情報が溢れている
- (2)メディアは細分化し、消費者の価値観も多様化してきた
- (3)情報の選択権を消費者が持ち、かしこい選択をする人が増えてきた
- (4)SNSなど属するコミュニティの価値観から受ける影響が大きくなってきた
- (5)自分の価値観に合う情報かどうかを文脈から瞬時かつ直感的に選別し、モノやサービスを選ぶようになった
このような状況の中で相手(消費者)のことを無視して機能やスペック、その他、企業の言いたいこと(=企業主語)だけを一方的に語っていても、多くの消費者からスルーされてしまいます。
「これがいい!」と選ばれるブランドになるための秘訣、それは徹底した生活者目線でターゲットの普遍的な欲望や思いに応えること(=生活者主語)です。製品やブランドの価値を決めるのは、いまや生活者です。クリエイターやマーケッターは<製品を「売る」仕組みをつくる>のではなく<消費者から「選ばれる」仕組みをつくる>時代になっていることを、常に意識してマーケティングをしなくてはなりません。
さらに、かつてのようにマスでの商品広告を見て国民全員が「これがいい!」と思うような、マス型の欲求が少なくなっている現在、「これがいい!」も一人ひとり異なっていると考えるべきです。これまで以上にターゲットを絞り込み、徹底的に生活者目線になることが新しい顧客獲得のために重要になってくるのです。
藤井一成氏(ハッピーアワーズ博報堂 代表取締役社長/クリエイティブディレクター))
1968年広島市生まれ。1992年早稲田大学政経学部卒業後、電通国際情報サービスに入社。1999年から博報堂でインタラクティブクリエイティブを軸に統合キャンペーンを数多く手掛ける。その後、グループ内ブティック、タンバリンに参加。2016年より同社代表に就き、「至福の時間をつくる」クリエイティブブティック「ハッピーアワーズ博報堂」に社名を変更。消費者の“いま”の視点に立ち、ブランドが持つ価値を再編集することで新たなエンゲージメントを築き、ブランドと消費者、社会を次のステージへとポジティブに動かす。「正しいことを楽しく実践して、すべてのステークホルダーを幸せにしたい」という信念のもと、戦略、クリエイティブ、体験デザイン、PR、デジタルなど、360°の視野で構想から実践までを行う。