“味わうため”の酒づくりにこだわってきた同社は、昨年末「お願いです。高く買わないでください。」という新聞広告で話題を集めることとなった。2016年、社長職を引き継いだ桜井一宏氏に「獺祭」ブランドが目指す未来について、ジェイアール東日本企画 営業本部 第三営業局長の大熊仁氏が聞いた。
(聞き手:ジェイアール東日本企画 営業本部 第三営業局長 大熊仁氏)
本当に届けたい人に思いを伝えるための
「買わないでください。」という強いコピー
大熊:昨年末の旭酒造さんの「お願いです。高く買わないでください。」というコピーの新聞広告は、大変話題になりました。広告会社で働く私としては、「買わないでください。」という強い言葉を使ったときの反応が気になります。社内外で、どのような反応があったのでしょうか。
桜井:いつも依頼しているデザイン会社も、また出稿先の新聞社からも抵抗はあったようですが、私たちの思いをはっきり伝えなければ広告を出す意味はないので、今回はシンプルな言葉を選びました。
反応はまさに賛否両論です。具体的には「炎上マーケティングではないか」、「資本主義を否定するのか」「出荷量が増やせない私たちが悪い」という意見もありました。
しかし、本当に伝えたかったのは、インターネットもソーシャルメディアも使わないようなお客さまに「町の酒屋(正規販売店)のほうが、良い状態の『獺祭』を適切な価格で買えるんですよ」ということです。
その点では、ファックスや手紙で「今まで買っていた『獺祭』は高かったのだということがわかった」「買いに行ったら高かったのでやめた」というお声をいただいて、期待した効果は得られたと思っています。
今回、ソーシャルメディアで拡散し話題が大きくなったのは想定外でしたが、結果的に注目が集まり、多くの人に私たちの思いを届けられたと感じています。
「飲んでもらうこと」、それ自体がマーケティングである
大熊:旭酒造では、広告やマーケティングに対してどのような考え方を持っていますか。
桜井:すべては「飲んでもらってこそ」だと考えているので、イベントに商品を提供する場合でも、ロゴを出すことよりも、温度や器、輸送中や現場での管理・保存などをしっかりとすることに最大限の配慮をします。そこで美味しく感じてもらえれば認知につながる。飲んでもらうこと自体がマーケティングなのかもしれません。
大熊:正しい状態で飲んでもらうことがマーケティングというお話は興味深いです。
新たなファンを増やす一方で、既存のファンを満足させることも大切です。そのバランスについてはどうお考えですか。
桜井:その点は、あまり気にしていません。私たちは、山口県ではほとんど売れず、東京の市場で受け入れられたことで広まりました。品質重視型のブランドへシフトできたのも東京を起点に受け入れられたからで、古くから特定のエリアや層の根強い支持があったわけではありません。
日々少しでも美味しいお酒をつくることこそが、私たちがすべきこと。その軸さえぶれなければ、新しいお客さまとの接点も生まれ、また既存のファンの方々にも満足いただけると考えています。
ブランドとして、より良いものづくりを目指していかなければ消費者の満足は得られませんし、特定の地域や既存の顧客だけを対象にしていては行き詰まってしまうのではないでしょうか。
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