優れたダイレクトメール(DM)活用例を顕彰する第32回全日本DM大賞(日本郵便主催)の各賞が2日発表され、グランプリにはソフトバンクの「10年間の感謝を込めたあなただけのケータイアルバム」が選ばれた。
同社は、新機種への変更や新サービス導入の促進と、ロイヤル顧客化を目指し、長期継続利用をしている顧客に対してDMを発送した。特典によって買い替えを促進するのではなく、長期利用に対して感謝の気持ちを伝えることで、ソフトバンクを好きになってもらい、そこから継続利用につなげることを試みた。送付したDM は、ユーザーが今まで使ってきたケータイ機種をアルバムのようにまとめたもの。一人ひとり異なる“ケータイの歴史”を、機種の写真とコピーで綴った。
DMの送付対象は、長期継続利用者の中でも、前回の機種変更から一定期間が経過し、かつシャープ製の機種を使っているユーザーに絞った。ケータイメーカーの中でも、シャープはリリース機種が多いため、ケータイアルバム企画が実現しやすかったという。
「アルバム」DMの内容は、単なる機種カタログにならないよう、DMの受け手が該当機種を利用していた年と、その年の社会的な出来事、当時のケータイの概況がわかるコメントも加えられている。デザインの細部にまでこだわり、受け手が「懐かしい!」と感じられることを重視した。DMの形状は、古いアルバムの定番である正方形に。表紙の紙や使用フォントも“歴史の重み”が感じられる、シックなものを選んだ。対象となるケータイ機種は100 以上。一人ひとり使用歴が異なるため、掲載違いが起きないよう細心の注意を払って制作された。
さらに同封の別冊チラシでは、「アルバムの新たな1ページに加えていただきたい」として、シャープ製の最新機種を紹介した。新機種への変更率は、同時期に実施したZ 折はがきDMと比較すると118%となり、ユーザーからは「懐かしい気持ちでいっぱい」「自分だけの“ケータイ歴史”に感動」「顧客を大切に思っていることが伝わってくる」などと、好意的な意見が多く寄せられた。ソフトバンクがDM 送付後に行ったSMSによる調査によれば、55%の人が、このDMが届いたことでソフトバンクを継続して利用したい気持ちになったと回答。顧客ロイヤリティの向上につなげた。
ソフトバンクの杉原渚氏は、「DMならではのコミュニケーションとしてどんなことができるかを考えました。コピー一つひとつにもこだわり、お客様に懐かしんでいただくことを目指しました」と話した。
このほか金賞には、CCCマーケティング、生活総合サービス、ダイレクトマーケティングゼロによるDM、3作品が受賞した。また銀賞8点、銅賞12点、審査委員特別賞3点、日本郵便特別賞6点(複数受賞あり)が贈賞式で発表され、表彰が行われた。
審査委員長を務めた恩藏直人・早稲田大学 商学学術院 教授は、贈賞式の壇上で「グランプリ作品は、受け手に懐かしさを抱かせる工夫がありました。ケータイは身近な商品だけに『この機種を使っていたときは、仕事でこんなことがあった』などと、思い出がよみがえるDMに仕上がっていました。DMというと、短期的な効果を期待しがちですが、第32回の受賞作品は、経験価値や情緒的な価値にフォーカスしたものがたくさんありました。またDMは、五感をすべて刺激できるツールでもあります。『センサリーマーケテイング』という言葉が注目を浴びていますが、こうした点を意識すると、DMのさらなる発展につながると思います」と講評を述べた。
本賞は、2016年4月から2017年9月にかけて制作され、発送されたDMが対象。応募856作品の中から「戦略性」「クリエイティブ」「実施効果」の3つの評価軸で選ばれた。30点の入賞作品は、3月5日から9日まで、東京・汐留のトッパンフォームズビル1階ロビーで展示される(10時~18時)。