ネットがテレビも抜きそうなのを見ると、マスメディアの完全敗退が迫っていると言えそうです。ただ、インターネット広告がマスメディアを抜くからと言って「ネットメディア」がイケイケかというとそうでもない。
電通報のこの記事を読んでください。
「2017年日本の広告費」解説-止まらないインターネット広告費の伸長で6年連続のプラス成長
従来は予約型の広告利用が主だった自動車や通信などの業種で運用型広告の活用が進み、これまでマス広告の利用が盛んだった食品や飲料といった業種でインターネットへの出稿が増加しています。
北原利行さんがこう解説しています。伸びてるのは運用型です。乱暴に言えばGoogleとFacebookじゃないですかね。プラットフォームが伸びていて、必ずしもネットメディアが伸びているわけでもないのかも。
もうひとつ引用します。
コンテンツの質で評価の高い出版社系のデジタルメディアが成長しており、出版社由来のデジタル広告の売り上げは2年連続で2桁成長を遂げています。
雑誌のデジタル化がこのところかなり進みました。紙をやめないまでもネットにメディアの居場所を移すのが雑誌メディアの常識になったと言えます。
その上には新聞の動きとしてこんなことも書かれています。
新聞各社のデジタルへの取り組みが進む一方、海外で発生したブランドセーフティー問題をきっかけに広告価値毀損への関心が高まり、リスクを回避したいというクライアントニーズに応えて、参加できるクライアントとメディアを限定したPMP(プライベート・マーケット・プレイス)の運用領域が拡大しました。
こうした新聞や雑誌がネット上で数字としてどれくらい売上を伸ばしたかはわかりません。まあまだまだだと思いますが、テレビもいまTVerの見逃し配信が定着しています。そう考えると、もともとのマスメディアがネットで逆襲をはじめたのかもしれません。
いや、まだまだ逆襲と言えるほどの数字ではないですよ、たぶん。でもね、一時期は雨後の筍のようにうようよ出てきたバイラルメディアとかいうのも、あまり見なくなった気がします。SmartNewsのようなニュースキュレーションも、中身のかなりは新聞雑誌、テレビのネット版です。
さてここで、こうしたメディア別広告費の現状をもっと理解するために見てもらいたいスライドがあります。1月29日に日本アドバタイザーズ協会(JAA)主催のセミナーがありました。その最初に日本インタラクティブ広告協会(JIAA)常務理事の植村祐嗣さんの講演がありました。その内容が、いまわかりにくくなっているネット広告の問題を理解するのにいい!と思ったのでここで紹介します。
先に説明しておきたいのですが、植村さんの講演の主眼は、ネット広告で起きている問題の整理です。ビューアビリティだのアドフラウドだの新しい言葉とともに新しい課題が出てきていますが、そんな問題が生じる背景を説明するスライドが以下です。
まずこれを見てください。インターネット広告は媒体費だけだと1.2兆円。それはどこから予算を奪って成長したのか。もちろん旧メディアですが、旧メディアとはマスメディアだけではない。
これを見ると広告やプロモーションのためのメディアやツールは多種多様にあった。そのそれぞれが役割に応じてネットに流れていったわけです。これを見ると、旧マスメディアはプレミアムネット広告になったと言えるようです。
他の電話帳広告から手紙や掲示板、そして店頭POPだの折込だのタウン誌だのティッシュだの、果ては押し売りや客引きなんてのも書いてあります。インターネット広告1.2兆円ってそういうお金が流れてきたんじゃないか。そんなことがわかる表です。
つまり、いまはまだマスメディアの広告費をインターネットはさほど奪えていないんです。奪ってきたのはもっとその下の領域。
よーく考えたらそうだった。店頭で派手なPOP飾られてたり新聞に分厚い折込が挟まってたり駅前でティッシュ配ったり郵便受けに変なチラシが入ってたり、いまだってありますけど、そういうものがネットに入ってきて同じ目的で様々に「広告展開」している。それが現在です。そういうのだって立派な広告だったわけですけど広義には「広告」でも狭義には「販促」です。
ああ、そうだよな、と思いました。広告が嫌われている、という議論にこの分類ならちょっと決着がつくんじゃないかと。嫌われてるのは広告と言うより、販促だったんじゃないでしょうか。
ネット以前はそこに棲み分けがあったんですね。ブランディング重視の広告と効率重視の販促という棲み分けもあった。そして何より、グレーからブラックなあたりとそうじゃない健全な領域との間にも棲み分けがあった。
それがいっしょくたになっているわけです、いまは。