ここに、ネット広告の問題を解きほぐすヒントがあるわけです。ブランディング目的のはずなのにクリック率が低いとか言われたり、本来はグレーな領域なのに大手企業の広告が出ちゃってたり。植村さんのお話は、ここからビューアビリティやアドフラウドの問題に入っていくのですが、ここでは別の方向に広げちゃおうと思います。
これ言うと怒る人いるかもしれないけど、アドテクと言われる技術や考え方も、どこまで有効だったんでしょう。最新のアドテクを駆使して、結局はグレーな領域で広告が表示されちゃってるだけだったとかね。
広告ではなく販促が嫌われてただけだとしたら、そしていまネット広告にいろんな疑問が噴出しているのなら、もう嫌われかねないような広告はクライアントにも嫌われるでしょう。ということは、ネット広告は本気でブランディングを目指さなくてはいけないのだと思います。たぶんこれからは、そういう広告しか儲からなくなる。儲からない広告はAIだかなんだかに任せて、ブランディング提案に本気で取り組む時代に突入したのです。
クズみたいな記事を並べてたクズみたいなメディアは、もうクズみたいな広告しか取れなくなるのです。そういう新しいパラダイムがはじまっています。ネット広告費が伸びてマスメディアは変化を強いられていますが、ネットメディアのほうこそ生き残りをかけた闘いをしていかねばならない。
だからネットメディアはダメになる、と言いたいわけではありません。むしろネットと旧マスメディアがいよいよ一線に並んだととらえましょう。ネットから意志を持ったメディアが伸びていくかもしれない。マスメディアがもとの紙や電波を少しずつ離れて、むしろネットを拠点として複数の経路にまたがる新しいメディアになるのかもしれない。どっちも面白そうで期待しちゃいます。
ただし、広告については理念的かつ戦略的にならねばならない。安易に枠作って安易にそれに乗っかっちゃうと、「なんてこった!」な事態になりかねない。むしろ、胸を張って営業活動してメディアの価値を理解してくれる少数の企業に支えてもらう、そして代わりに、その企業にあった読者との間を結んでいく。そんなことがこれから十分可能性出てくるのだと思います。
とか考えてると、すでにあちこちで「新しい動き」がはじまっているようです。私もどんどん取材したりセミナーやったりして、そうした動きをちょっとずつでもサポートしていきたいと思う次第です。
境 治(コピーライター/メディアコンサルタント)
1962年福岡市生まれ。1987年東京大学卒業後、広告会社I&S(現I&SBBDO)に入社しコピーライターに。その後、フリーランスとして活動したあとロボット、ビデオプロモーションに勤務。2013年から再びフリーランスに。有料WEBマガジン「テレビとネットの横断業界誌 Media Borer」を発刊し、テレビとネットの最新情報を配信している。著書「拡張するテレビ ― 広告と動画とコンテンツビジネスの未来―」 株式会社エム・データ顧問研究員/電通総研フェロー お問合せや最新情報などはこちら。