—メディア企業には今、どのような挑戦や変革が必要とされているのか。
メディア企業は、旧態依然とした「メディア企業」であり続けてはならないと考えている。
まず、データ活用がますます重要になるだろう。バナー広告ひとつとっても、データに基づき、より効果的なクリエイティブで、より効果的な配信を実現する必要がある。自社のプラットフォーム内に限らず、社外を含めたデータのエコシステム全体を把握・理解する必要があり、そのためには、新しいテクノロジーやソリューションを積極的に取り入れていくことが求められる。
また、メディア企業は「クリエイティブエージェンシー」であるべきとも考えている。
CNNインターナショナルの場合は、ニュース番組の編集チーム、非ニュース番組部門の「CNN Vision」、そして社内クリエイティブエージェンシーの「CNN Create」といったコンテンツ制作機能を持つチームと、ビジネス部門とが協働して新たなビジネスを創出し、クライアントに向けてサービスを提供する体制を確立しており、今後も強化していく考えだ。
—2015年の入社後、CNNのデジタル戦略をどのように改革してきたのか。
まず、新しいスキルを持つチームをCNNの組織に組み込んだ。新しいスキルとは、デジタル広告のオペレーションや、データマネジメント、プログラミングといったものを指す。チームの立ち上げに合わせて、世界各地でのデジタルディレクターの採用も行った。これは、クライアントのニーズに合わせてチャネルを組み合わせ、ブランドメッセージを発信する「マルチプラットフォーム戦略」を実現するための基盤づくりとも言えるだろう。
そして、データ分析・活用の仕組みとして「CNN AIM(「A」:オーディエンス、「I」:Insights、「M」:Measurement)」を構築した。CNNのプラットフォームのオーディエンスを、居住地域・性別・年齢・職業などの属性やビヘイビア、興味関心などの条件でセグメントし、「誰(ターゲット)に対して、どんなコンテンツ(ストーリー)を届けるのか」というクライアントの戦略構築をサポートしている。
キャンペーン前に最適なオーディエンスを特定し、キャンペーン中はリアルタイムで配信の最適化を行う。そしてキャンペーン後には、滞在時間や回遊率、エンゲージメントといった詳細なデータに基づいて効果を測定し、次の施策へとつなげる。
データを用いて、適切なオーディエンスに、適切なチャネルを使って、適切なタイミングで、適切なコンテンツを届ける。そうすることで、ブランドと消費者とのエンゲージメントを高めている。
—その改革は、CNNのオーディエンスにどのようなメリットをもたらしたか。
CNNが属するターナーグループが「ユーザーファースト」を掲げているように、我々CNNが行うあらゆる改革は、オーディエンスの体験の質をより良くすることを目的としている。
デジタルテクノロジー、そしてデータの活用を推し進めることで、広告コンテンツの質を高め、それに接触するオーディエンスの体験の質を高めることにも成功している。
CNNの強みは、クオリティの高いプレミアムな編集コンテンツにほかならない。それと同様に、広告コンテンツも高いクオリティを担保する必要がある。編集コンテンツと広告コンテンツとで、オーディエンスが得られる体験の質に差があってはならない。CNNの広告コンテンツは、「ブランドのストーリーがターゲットにきちんと伝わる」ものであると同時に、オーディエンスの体験を向上するようなものでなければならないのだ。
オーディエンスにとってつまらない広告や興味のないコンテンツ、CNNらしくないコンテンツがつくられたり、表示されることがないよう、引き続きデータの活用に力を入れていきたい。
—多くのメディア企業が、新たなマネタイズの方法を模索している。CNNが今後の成長戦略を考える上で大切にしているポイントとは。
スマートフォンの浸透により、オーディエンスがコンテンツを消費する方法は大きく変化してきた。我々メディア企業は、オーディエンスが普段、何に触れているのか、何を使っているのかを感度高く追いかけ、スピーディに対応することで、収益源を見いだすことができるだろう。
同時に、自分たちが大切にしてきた強み、独自性をさらに磨き上げていくことも重要だ。CNNで言えば、ブランドのストーリーテリングのための企画・編集力が挙げられる。その力は、テクノロジーやデータの活用を推し進めることで、さらに強化することができるだろう。
そこで重要なのは、その効果を証明することだ。つまり、新しいテクノロジーやデータを用いて展開した施策がいかにワークしたかを、デジタルテクノロジーやデータを用いてクライアントにフィードバックすることが不可欠なのだ。そうして信頼を得ることが、収益増にもつながっていくと考えている。
具体的なマネタイズの方法としては、近年成長著しい、ブランデッドコンテンツ事業に自信を持っている。
—CNNが、「効果的なブランデッドコンテンツ(広告コンテンツ)を制作し、効果的な配信を行う」という目的以外で、オーディエンスデータを活用する可能性はあるか。
メディア企業にとって、オーディエンスは何より重要なものであり、それを守ることはメディア企業にとって最も重要な責務と言える。
CNNの戦略の中心にあるのは、常に、オーディエンスと、彼らに紐づくデータだ。そして、そのデータに、CNN以外の第三者が直接アクセスすることはあってはならないと考えている。CNNのプラットフォームを離れて、オーディエンスデータだけが独り歩きすることはあり得ない。
CNNのWebサイトのオーディエンスのみならず、ソーシャルメディアのフォロワー、および彼らに関するデータ、そしてそこから得られるユニークなインサイトも、重要な資産だ。2016年にローンチした「ローンチパッド(Launchpad)」は、オーディエンスがどのようなインサイトを持ち、日頃どのようなコンテンツに接していて、どのようなブランドに関心があるのかを分析することができる。それを基に、どのオーディエンスにどのようなコンテンツを届けるか、コミュニケーション戦略を企画・実行している。
—新しいテクノロジーを積極的に取り入れている CNNだが、いま特に関心を寄せているテクノロジーはあるか。
ジオ・テクノロジーに関心がある。地理学的に人の動きを捉え、どんな人がどんな場所へ行き、どんなものを見たり触れたりしているのかを把握することは、オーディエンスデータの活用を推し進めていく上で重要なのではないかと考えている。
またCNNでは、2017年3月にVRコンテンツ専門ユニットの「CNNVR」を発足させ、VRコンテンツを活用したジャーナリズムに本格的に取り組み始めた。VRには、今後も引き続き注目していく。
VR/ARは、これからさらに人々の日常生活に浸透していくだろう。それに備え、効果的なコンテンツのつくり方をいち早く習得し、ナンバー1のポジションを築きたい。もちろん、編集コンテンツだけでなく、広告コンテンツにおいても、VR技術の活用を進めていく。
2017年度、CNNのデジタル事業は前年比30%の成長を達成した。どんなテクノロジーを活用するにしても、その目的は常に、オーディエンスの体験の質を高めることにある。それは今後も変わることはないだろう。
CNNインターナショナル
広告営業・データ部門責任者(Head of digital advertising sales and data)
Rob Bradley氏
CNNインターナショナルのデジタル戦略・プログラム戦略の国際的展開、および最先端のデータ・ソリューションの実施を統括する。FOXインターナショナル・テレビジョン、IDGを経て、2015年5月にCNNに入社。IDGでは事業オペレーション部長を務め、英国初のフル・サービスのパブリッシャー・トレーディング・デスクを開発、市場に導入したほか、IDGのアドテック・スタックの運営およびコマーシャライジングを行うチームを率いた。様々なメディア・プラットフォームにわたって豊富な経験を持つ。