英国軍のリクルート活動2018 — ロンドン街角レポート(2)

【前回】「英国のクリスマス商戦、鍵となるのは…? — ロンドン街角レポート(1)」はこちら

英国内ではこのところ、国防にかける予算と編成に関し、大きな議論が巻き起こっています。好景気のヨーロッパ諸国に対し、2017年の英国実質国内総生産(GDP)は1.8%と、5年ぶりの低調を記録。成長率に関しては18年が横ばい、19年に関しては0.1%に留まるとの予想が出ています。

ポンド安の影響もあり消費が冷え込む中、政府の懐は厳しく、新しい兵器の購入や十分に機能していないと見られる軍隊の編成に関しては、その都度メディアが大きく取り上げ、批判に晒されています。

そんな中、英国軍が2017年から『This is Belonging』というテーマの大々的なリクルートCMキャンペーンを行っています。今年2018年も1月に『This is Belonging 2018』と題し、新たに160万ポンドを投じたドラマとアニメーション、計10本のCMシリーズが発表されました。

『This is Belonging』というテーマは、人種、宗教、性別を超えて入隊者を受け容れサポートする、英国軍の新しいあり方を示唆しています。

 

 

英国は徴兵制ではなく、16~25歳の若者、これまでは主に人口のほぼ79%を占める白人を重点的にリクルートしてきました。しかしながら、ここ何年かは人員の不足が指摘されています。2016年4月から2017年3月にかけての入隊数は8194人であったのに対し、同時期に9775人が退職し、転職していきました。

軍隊での仕事を辞める理由のひとつとして、現在の英国は人口の高齢化もあって人手不足である業界が多く、雇用が比較的安定しているからという意見があります。家族と離れ、過酷な環境での職務を追うことになる軍隊での勤務よりも、一般企業などでの職を選ぶ傾向が強まっているようです。

こうした状況を打開するため、英国軍は2016年に670万ポンドであった広告費を2017年の1~9月だけで1000万ポンド以上と50%近くアップさせてリクルートキャンペーンを行ってきました。しかし、たくましい肉体を持つ勇敢な若者を求む、といった内容の広告に応えた入隊希望者は多くありませんでした。

これを問題視した英国政府は、国防省に、今後は生まれや生い立ちに関係なく、より多彩なバックグラウンドを持つ人材を雇用し、個々人の潜在能力を最大限に引き出していく、という方針を打ち出させました(こうした取り組みのひとつとして、英国軍は2017年6月、LGBTQ+を支援する広告キャンペーン「プライド イン ロンドン」に参加しました)。

このような経緯で始められた『This is Belonging 2018』の広告は、現役兵士が出演するシーンを撮影したドラマシリーズ、そして兵士の声を録音したアニメーションシリーズから構成され、テレビとSNSでの配信が行われています。内容は前述の国防省が掲げた方針を反映し、英国軍がさまざまな人種や宗教、セクシュアリティを受け容れ、精神的なサポートも提供する職場であることをアピールするものです。勇敢に戦う人材を求める以前のリクルート広告とは異なる、ミレニアル世代を対象にした、新しいPR戦略です。

This is Belonging advert from British Army. Photograph: PR

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