レターを仮想通貨にしなかったのは、マネーゲームにしたくなかったから
中村:そういうことなんだ。そもそも全部換金されたらサービスのほうが閑古鳥が鳴くじゃないですか。企業ポイントは金融庁のルールで一般に換金しちゃダメなんですよ。だからTポイントは日本円にできないじゃないですか。
西野:僕も金融庁の人と結構飲みに行って教えてくださいよって。スタートしてからバツ出されるのが嫌だったので、その前にどういうルールか全部聞きました。
中村:それで言うと、レターポットは初めは仮想通貨にしたかったんじゃないかなと思うんですよね。
西野:そういうところからスタートしました。
中村:つまり、1レター5円じゃなくて、1レターいくらかはみんなで決めてくださいと。仮想通貨だから常に価値が変わるんですよ。そうすると、1レターがマジョリティをとっていけばいくほど価値が上がってくると。そのほうがエキサイティングじゃないかと思ってたんですけど、そうではなかった?
西野:最初自分が文字を通貨にしようというとき、スタッフを集めて、そういう声もあったんです。でも、まずレターというものをマネーゲームのためのお金にするのはやめようという話になりました。これで儲ける人が出てくるというのをやっちゃうと、詳しい人が情弱から巻き上げる構造が絶対発生するよねと。
そうじゃなくて、単純にいいことをしている人に。文字がどこで発生するかというと、いいことした人に発生しているんですね。ありがとう、昨日ご馳走様でしたと。有名、無名関係なしにいいことをした人にレターが集まるようにしようとなったときに、賭け事性は外したほうがいいなと。
最終的にうちの父ちゃんなんです。父ちゃんってめちゃくちゃ真面目で、全く無名だけど、10年前に会社を辞めるときに寄せ書きがビッチリ書かれてたんですよ。すごい愛されていて。今も年賀状がたくさん来るし、ご近所からも信頼を集めてるんですね。万年平社員なんですけど、愛されていて、文字を集めているとなったときに、父ちゃんを勝たせたいと思ったんですよ。
一同:(笑)
西野:単純に文字が集まった人が生きやすい世の中にしてあげたらいいかもなと思って。父ちゃんに文字が集まっていて、それがレターだったら、たとえば美容室に言ったときにそれで髪を切れたり。なんで父ちゃんが美容室でタダで髪を切れたかというと、その前に父ちゃんが良いことをしていたから、という感じですね。そこに賭け事性を入れちゃうと父ちゃんが助けられないというのが結構でかかったですね。
澤本:すごいよね。気持ちの総量がレターという通貨じゃないけど、そういうものだから、いい気持ちをいっぱいもらった人が持ちレターが多くなるというシステムですよね。それはすごいな。
権八:あえて聞くと、ネガティブな言葉もレターとして成立するんですか?
西野:それ本当にいいパス出てます(笑)。ありがとうございます。まず、「西野アホ」という内容もレターとして送れます。ちょっと話がズレますが、この間、別々の友達、AさんとBさんから連絡をいただいて、Aさんの友達が末期がんになったと。別のBさんの友達は急性白血病になったと。どっちも余命宣告をされてるんです。まだ若くて30代前半です。
Aさんに「末期がんの友達のFacebookを見てあげて」と言われて見てみると、その方の文章や言葉選びのいちいちが美しいんですね。これは一体なんだと。なんでこの人の文章はこんなに気持ちがよくて、スポンと抜けてるのかなと。それがわからなかったんです。
次にBさんが「急性白血病の友達が西野に会いたがっててん」とポロッと言ったので、次の日に会いに行ったんです。急性白血病の彼は余命3カ月なんですね。彼と2時間ぐらい話したんですけど、やっぱり彼の選ぶ言葉、口から出てくる言葉のいちいちが美しいんですよ。
なぜ、この人達はこんなに綺麗な言葉を使えるんだと、全然わからなくて。それで家に帰ってレターポットをいじってたら、ハッとしたんです。スタートから1カ月ぐらい経っている頃で、僕のところにはレターポットが1万5千通ぐらい届いてるんですけど、誹謗中傷が1件もないんですよ。キングコング西野に誹謗中傷はないって異常事態で。
澤本:むしろ不安になりますよね(笑)。