文字が通貨になるサービス「レターポット」とは?(ゲスト:キングコング西野亮廣)【中編】

言葉が「有限」と知ると、ポジティブな言葉が出てくる

西野:大丈夫なのかと(笑)。そのときにようやくわかったんですけど、レターポットは残りの持ちレターがあるので、残り10レター、10文字しかないとなったときに誹謗中傷、誰かの揚げ足をとることに使うのか、それともお世話になっている人にありがとうという言葉を使うのか。この2択でどちらかというと、みんな後者を選ぶんです。

残りの言葉が少なくなったら、感謝、ありがとう、そっちの優先順位が高くて、悪口の優先順位は低いんですよ。そこから白血病の彼、末期がんの彼の選んでいる言葉が美しい理由がわかったんです。彼らは生き延びることを全然諦めてないんですけど、とはいえ最悪の日のことも覚悟していて。

つまり、彼らは自分が残り使える文字数が限られていることを知ってるから、無駄なことを言わないんです。だから、僕たちは言葉が有限である、という自覚をすれば、美しい言葉しか使わない。元来、言葉は美しいんですよ。

中村:ツイッターでクソリプしないと。

西野:しないんですよ。クソリプする理由は言葉が無限という錯覚に陥っているからです。でも、言葉は元来美しくて、無限となった瞬間に無駄玉を撃っちゃうんだとわかって。その優先順位が美しい言葉が上に来ていたというのが一番気持ちよかったです。

中村:それで思うのは、言葉がポジティブなインターフェースを持ちやすいというか。つまり、クソリプを打とうと思って、「西野死ねバカヤロー」と書いたら、それで9レター送っちゃうことになるから、自分で自分を殴ってるみたいになりますよね。この野郎と言いながら、価値を上げていることになっちゃうから、性善説的な言葉にどうしてもいきやすいと。たぶん人はどっちのモードもあると思うんです。だから、性善の言葉に持ち込みやすい仕組みだという。

権八:面白いし、ちょっと感動的ですよ。そんな発見してる人いないよ。でも、レターポットのサービスで収益が出るんですか?

西野:レターポットの収益は全て晒しているんですけど、どこで売上を上げているかという問題があるんですね。よく言われるのが1レター5円なので、レターの売上で会社を回してるんでしょと。

澤本:普通はそう思いますよね。

西野:そうじゃなくて、もともと会社は何か困った人がいたときに支援できるようにとはじまったので、レターポットはお金儲けでスタートしたわけじゃなくて、どちらかというと、社会実験、アート作品なんです。集まったお金を何か面白いことに使いたいという話です。

レターポットの利益はどこから上がってるかというと、レターが売れても会社には1円も入りません。レターを送るときに、僕が権八さんに100レターを送るときに切手代が発生するんです。それが1レター、5レターなど、送るサイズによって違うんですけど、切手代が発生したらレターポットの市場から5レターは消滅します。この消滅したレターぶんが会社の売上です。

たとえば被災地にレターを送ろうという話になったときに、会社は被災地用の公開レターポットというポットをつくるんです。みんながここに声を集めたら、集まった相当分の日本円を会社が出さないといけないので、市場に残ってるレターは基本的に手をつけられないんです。市場から消滅したレター、切手代が会社の利益になるんです。

中村:売買手数料ですね。払うほうとしてはそれで生金がとられるよりは切手代としてレターのいくぶんかが取られるほうが心の痛みは強くないし、サービスの中のルールとして納得しやすいから、非常に優れているなと。上から目線ですが。

西野:いやいや(笑)。成人式の話でいうと、本当は一番よかったのは成人式用の被害者の方への応援レターの公開ポットをつくっちゃって、みんながここにレターを送ってくれて、送ってくれたぶん相当の日本円を会社から出せたら良かったんですけど、今回はそんな機能をつくる前にああいう事件が出てしまったのでヤバイねと。

それで一応僕のレターポットにみんなから新成人の応援レターを送ってもらってるので、厳密に言うと、市場からレターは消えてないんです。だから会社から出せるはずだったお金って出せてないんですね。切手代から何とかやりくりして出してるんですけど、クソ赤字ということです(笑)。でも、よくて。なんでいいかと言うと、そこをちゃんと議論したほうがいいと思うんですけど、被災地を支援するとなったら、永続的な支援になっていくじゃないですか。

たとえば、困った人がいて助ける、そういう刹那的なものであればボランティアでいいし、善意に委ねていいと思うんですね。でも、永続的な支援が必要なものは、最終的には金銭面での体力的な限界が絶対来るので。支援する側は時間もお金もかかっちゃうので、お金が捻出できなくなった瞬間に、この支援を打ち切らないといけない、という問題が出てきます。

だから永続的な支援はボランティアに委ねるのではなく、ビジネスにしないといけないんです。支援することで支援している人が増える、家族が食える状態をつくっておかないと、助けられる人が最終的に減っちゃうなと。具体的に助ける人を増やそうと思ったら、ちゃんと支援する人にお金が入る仕組みをつくろうとして、レターポットは何をしたかというと、やっぱり人を助けたいので、レターポットに利益が出ないといけないよねと。新成人に全額負担しますよと言ってるけど、あれはあくまでレターポットの広告費です。

澤本:なるほど。

次ページ 「レターポットは善意によって成り立つ「アート」」へ続く

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